時間資本主義時代で成功する方法

松岡(2014)は、現在は、人間の経済活動の基準が「価格」ではなく「時間」にシフトしていく時間資本主義の時代に突入しており、この時代では「時間価値」という軸でものごとを考えることが重要だと指摘する。その理由としては、経済、科学技術の発達で私達が生活するうえでの制約条件がなくなっていくなかで、「時間」が人類最後の制約条件になってきていること、IT技術の発達に伴い「すきま時間」の価値が急激に上昇していることなどが挙げられるという。よって、数千年という歴史の中で人類が慣れ親しんできた時間間隔が断層的に大きく変化しているというわけである。


時間資本主義の時代では、「その時間が付加価値を生むのかどうか」という意味での「時間価値」を考える必要があると松岡はいう。その中で2つの異なる時間価値がある。1つは、かかる時間を短縮できる度合いとしての「節約時間価値」で、もう1つは、有意義な時間を生み出す度合いとしての「創造時間価値」である。前者は「時間の効率化」と「時間の快適化」と言い換えることもできるという。つまり、時間価値を高める軸としては、時間を節約するという「効率化」と、その時間を快適に過ごす「快適化」の2つの異なる方法があるということだ。ただし、時間が節約できたかどうかは基準が共通しているのに対し、時間を有意義に過ごせたかどうか、快適に過ごせたかどうかは個人の好みや価値観によって異なるという違いはある。


そして、松岡は、時間資本主義時代における時間と生産性の関係は、工業化時代のように労働に時間をかければかけるほど生産量が上がるという直線的な関係ではなく、「クリエイティビティによって価値を生む」「創造生産性」の影響で、短時間で生産性が急増するケースが増えてくることを示唆する。そのため、時間資本主義時代においては、短時間で付加価値を生み出せるために、お金も時間もある、すなわち「マネーリッチ」かつ「時間リッチ」である「クリエイティブ・クラス(振興エリート)」が出現しているのだというわけである。これは、高収入だが多忙で時間がないという「伝統型エリート」とは異なる階級である。また、お金はないが時間はたっぷりあるという階級もある。


このような時代において、時間価値すなわち時間のクオリティを高めるためには、時間の効率化とともに時間の快適化を進め、クリエイティビティを高めることが重要な戦略となる。しかし、松岡によれば、どうしても「時間の効率化」の側面ばかりが強調されがちであると指摘する。いくら時間の効率化が実現し、新たな時間が生み出されたとしても、それらを「快適化」することをしなければ、単に無色透明な時空が生み出されるだけで、私たちの人生は豊かにならないと指摘するのである。だからこそ、これからの時代は、「時間の快適化」や「創造時間価値」という概念を強く念頭に置いた行動が求められるのだと松岡は論じるのである。