幾何学的精神とは何か

吉田・赤(2013)によれば、パスカルは人を説得するのに2つの方法があり、1つ目は理詰めで論破すること、2つ目は人の気に入るような言い方をすることだといった。そして第一の方法については3つの規則があるという。1)用語の明確な定義、2)明晰な公理、3)厳密な論証である。


1)の「定義」については、議論で用いられる用語が多様の意味に受け取られて困らないようにするためである。2)の「公理」については、すべての命題についてそれが正しいか正しくないのかを確かめようとすれば必ず相手に認めてもらわなければならない究極の命題につきあたることを示す。3)の論証については、ある命題を基礎として、他の命題が正しいことを立証する操作を意味する。そして、これら3つの規則は、ギリシア時代の幾何学を基礎にしていることから、幾何学的精神と呼ぶのである。


このように、幾何学的精神とは、幾何学には「論証的」という性格があるということから精神を指す。論証とは「公理」と呼ばれる「論証されないことがら」を基礎として、それからすべてを証明していく方法である。ギリシア人によって生み出されたこの方法は、それ以前の民族のほとんどあずかり知れなかった人間精神の新しい1つの領域であったと吉田・赤はいう。このギリシア幾何学の結晶が、エウクレイデス(ユークリッド)の原論である。吉田・赤によれば、原論は聖書の次に広く読まれた書といわれ、人間の論理性を練磨するのに最適の経典でもある。


吉田・赤は、幾何学的精神ないしは論証的方法の本質は「立場を明らかにする」ことであるという。1つのことを主張する際に、自分はいったいどのようなことを基礎とするか、また自分の使う用語はどういう意味合いのものであるかをすっかり述べて相手に承認を求めた後、仮定したことのみを根拠とし、用語には宣明した以外のいかなるニュアンスをも与えないで推論を進めるというやり方である。この推論そのものについては、三段論法をはじめ、簡単なものから複雑なものまで様々なものがあるという。