世界史で学ぶ歴史法則

歴史は一回性の連続であり、自然科学でいうような法則性はないと考えられるが、それでも、この世の中もしくは社会の仕組みを理解するうえで役に立つ法則性のようなものを見いだせる場合があるだろう。後藤(2011, 2012)は、世界史の解説を通して、そのような法則性をいくつか紹介している。


例えば、後藤が命名する「ガラガラポンの法則」。これは、大きく社会構造が変わるときは、多くの国や地域を巻き込んだ大戦が得てして起こり、そんな大戦が終わると大戦の結果を踏まえて、新たな国家体制が構築されるという法則である。そのような法則の元祖といえるのが、全欧州を巻き込んだ三十年戦争終結後に締結された「ウェストファリア条約」だという。その後も、世界史ではこうした大戦と条約もしくは会議が繰り返されていると後藤は解説する。


別の例として挙げられるが「外部に敵をつくることで国内の争いを取り除く方法」の存在である。後藤は、これは国際社会では常套手段であるという。その例が、イギリスから独立を勝ち取ったアメリカ合衆国の初期の歴史である。実は当時はアメリカの13植民地の意向はまとまってはいなかったという。本国イギリスという憎き敵を前に1つになっていただけのことだという。21世紀のアジアの大国も同様なことをやっていると後藤は指摘する。


また、後藤は、20世紀初頭のロシアで登場した社会民主労働党が誕生後の創立大会でいきなり分裂した史実をもとに、社会の貧者とか抑圧されてきた民族や人種は、概ねここが勝負という勝負どころを前にあっけなく分裂するという法則性を指摘している。


王様や貴族とかお金持ちとか既得権益者は、普段は見苦しい喧嘩をしていても、共通の敵を外に見つけると見事なまでに結束する。その理由は、上流階級は政治に慣れていて、政局のための権謀術数にも長けており、多数派工作もお手の物だからであるという。それに対して下層の人々の場合、往々にしてそういうことに不慣れなので切り崩しなどに耐えられなかったりする。また、生活に余裕がない人が多いため、当面の生活の安泰を約束されたり、目の前にニンジンをぶら下げられるとふらふらしてしまうという。


もちろん、理念のためには死も厭わずという人もいるが、上でも下でもない人々はあまりに必死な形相を見せられると危険を感じて引いてしまうので結果的に多数派になれないともいう。実はこの真ん中の人々を、例えば現代でいえば無党派層、を取り込めるかが重要なのだが、真ん中の人たちは目は上を向いているので、どうしても上が有利になりがちだという。さらに真相に近いことをいうと、そもそも下からの運動が始まるということは、周りの人を焚きつけて動かしたリーダーが存在するということであり、運動が大きくなる時というのはそういうリーダーと小集団がいっぱいあってくっついたということなので、下のグループにはリーダーになりたい人が大勢いることになる。そして彼らは人の下につくことは潔しとしないから分裂が起こってしまうのだという。