オリジナルな働き方を設計するための「5つのシナリオ」メソッド

ちきりん(2013)は、どんな分野にいる人も、働いて数年たったら、将来あり得る働き方のモデルを5つ程度、言語化(シナリオ化)し、自分の進みたい道について意識化するべきだという。働き始めてみれば、ひとつの職業の中にも、多岐にわたる働き方のバリエーションが存在しているのが分かるからである。ちきりんはこれを「キャリア形成における5つのシナリオメソッド」と呼んでいる。ほぼすべての職業の人のキャリアプランニングに使うことができるという。例えば、会社に営業として就職したならば、次の5つのシナリオが考えられる。

  1. 新卒で入社した会社で管理職、経営者を目指すべく、さまざまな部門を経験しながら、組織内の政治力も身につけ、その企業の中で出世する
  2. 社内での出世を目指さず、一貫した専門分野でキャリアを極める
  3. さまざまな経験を積むため、何年かごとに業界や会社を変えながら、市場横断的な営業スキルを身につける
  4. 一定の年齢で組織を離れ、営業代行や営業スタッフ教育を請け負う自営業者になったり、講演・執筆を通じて経験地の伝道者となる
  5. 技術を持つ仲間と起業し、自分は営業部門の責任者として働きながらより広い分野を担当する経営者となる


ちきりんは、例えば企業の会社員が、仕事や生活において自分の歩む道が今の延長線上の1本しか見えていない場合、会社の業績が悪化したり業界全体が不況にみまわれても何一つ為す術がなく、おろおろするしかないと指摘する。そして自分がリストラさえれたり会社が潰れても、今までと同じ仕事ができるところを探すしかない。昭和時代は、キャリア形成を自ら行うことを放棄し、会社の辞令にそれを任せてしまっていればよかった。しかし、世の中は変わりつつある。キャリア形成を決して組織任せにせず、時代に合わせて個々人が考え続けるための具体的な方法が「常に5つの将来シナリオを念頭において働き、次に行く道を考え続ける」という方法なのだというわけである。


キャリア形成とは、先行きの選択肢を複数考え、自分が進む道を意識的に選び、その道でやっていくために必要な知識やスキル、経験をどう身に着けていくか、自分で設計し、実現していくことだという。したがって、最初に職業を選ぶ場合、その職業を選んだときに将来のキャリアがどのような道に分岐していくのかという選択肢のバリエーションについて早い段階で理解しておくことをちきりんは勧めるのである。こうやって早くから主体的に自分のキャリアを形成するという意識を持っていれば、40代でオリジナルな働き方を実現するのも、決して崖から飛び降りるようなリスクの大きなことではなくなるとちきりんはいう。


そもそも、ちきりんが提案するのは「職業人生は2回ある」「人生を二度生きる」という考え方である。具体的には、働く期間を20代前半から40代後半までの前期職業人生と、40代後半からの後期職業人生に分ける。こうして一生の間に、2パターンの職業人生を送るわけである。最初からリスクを負うのがいやな場合は、前期職業人生は、旅行の「パッケージツアー(標準的就職、横並び人生)」のようでもよい。そうして社会の仕組みがわかってくれば、2回目の後期職業人生は「自分だけのオリジナルツアー(自由設計、オリジナル人生)」にしたいと思うだろう。