キャリア論流行のわけ

「キャリア」が現代のキーワードとなった理由

旧来の企業と個人との心理的契約は、個人が企業に忠誠を尽くす代わりに、企業が安定した雇用と収入を保証するというものであった。この関係は昔のアメリカでも見られたが、さらに強い関係であるために、企業は雇用のみならず、家族の面倒まで見るようになり、その代わり、個人は、辞令一本でどこにでも行く、あるいは仕事の終わりに上司に飲みに誘われれば無条件についていくというような関係が形成された。


そして、時代の変化とともにこの関係が崩れてきた。まず、企業の業績不振、倒産や経営破たんが増え、企業が雇用保証を約束できなくなった。個人もその状況に危機感を抱き、企業の言いなりになって働くことに抵抗感を覚えるおうになり、転職なども念頭においた自律性を求めるようになった。日本が経済的には豊かになり、好きな仕事をしたい、プライベートを充実させたいので働き蜂にはなりたくないということを考える余裕が個人にも現われるようになったことも一因であろう。


旧来の心理的契約が成り立たなくなってきたゆえ、新しい時代にあった心理的契約を模索せざるをえない。そこで、近年提唱されている心理的契約というのは、個人が自分でどのように会社に貢献できるかを考え、それに基づいて必要なスキルを磨き、仕事を通じた成果というかたちで企業に貢献する。その見返りに、企業は、成果に応じた報酬と、個人のニーズに合わせた仕事の機会を与えるという心理的契約である。このように、個人と会社のべたべたな関係は姿を消しつつある。よって、社内旅行や社内運動会なども少なくなりつつある。


よって、個人はある程度自分自身で自分のキャリアに責任を持つことが求められ、会社はそれを支援するという関係になるのが望ましいとされるようになってきた。会社はもやは安定雇用は保証できないが、個人がどこにいっても活躍できる「エンプロイヤビリティ」を身に着ける機会を与える義務も多少は負うことになる。ここに、個人も企業も、本人のキャリアをこれまで以上に真剣に考えるべきという時代の流れが形成されてきたのである。