戦略的アウトプレースメント

アウトプレースメントとは再就職支援のことであり、雇用調整などで企業を離れる人材の再就職先を斡旋するなどのサービスを行うことである。


これまで、労働市場流動性が比較的低く、長期雇用を中心とした日本の企業においても、近年の経済の不確実性や技術の急速な進歩により、企業の事業構造を再構築(リストラクチャリング)をする必要性に迫られたり、合併や買収など、企業の再編をよぎなくされることも珍しくなくなってきた。そのような環境では、人材の新陳代謝も必要となってくる。つまり、事業を再構築するにあたって、既存の技術や知識を持つ人材を輩出する一方で、新しい技術や知識を持つ人材を新たに取り入れるようなことが、企業活力を維持していくうえで必要になってくる。そこでは、企業を離れていく人材に対して、その人材が再就職などで困難な状況に合わないためのサポート体制の構築が重要となってくる。


これまで、大企業においては、戦略的アウトプレースメントなるものが存在し、効率的に人材を企業外に輩出し、内部昇進してくる若い人材を滞りなく昇進させることに成功してきた。戦略的アウトプレースメントとは、企業が子会社を設立し、そこに人員調整後の人材を送り込むことによって、退職後の再就職を100%保証することである。これにより、企業の従業員は、早期退職後の再就職の心配をすることなく、安心して企業で働けたのである。


その方法は、段階的に行われる。まず同期入社組みに対し、企業の幹部として残す人材を除いて、あとは子会社に出向させ、しばらくしてから転籍とする。この時点では親会社を早期退職し、出向先の子会社に改めて就職することになる。場合によっては直接的に子会社に転籍というかたちで人員調整をする場合もある。組織がピラミッド構造であるがゆえ、昇進の階段は先細っている。だから、戦略的アウトプレースメントによって人材を外に輩出することによって、後続の若手が順調に昇進することができる。親会社が人材の出向・転籍を100%保証することになると、受け入れる子会社としては、極端な話、どのようなレベルの人材もある程度の賃金水準を約束したまま受け入れなければならないために、企業業績上の不安がでてくる。それについては、親会社−子会社という関係であるゆえに、ある程度の業績不振を親会社が黙認するということが可能となってきた。つまり、子会社が親会社の人材の再就職を100%受け入れるかわりに、それに伴う企業業績上のリスクを親会社が負担するというような関係を親会社−子会社間で持っていたと考えられる。


しかし、連結会計が強化されるようになってから、この方法の効果も疑問視されるようになってきた。なぜならば、親会社単体で見れば、人材が子会社に転籍していくことによって昇進の滞留を防ぐことができ、人材の新陳代謝がスムーズに行っているように見えるのだが、連結会計によって親会社も子会社も同じ財務諸表で評価されるようになれば、結局、企業グループ内では人材の新陳代謝が行われていないことになってしまうからである。よって、近年では、企業にとって、より戦略的なアウトプレースメントが求められるようになってきているといえよう。