就職活動の勝ち組・負け組とリスク志向

カーネマンとトバスキーの「プロスペクト理論」によると、人は、いわゆる勝ち組にいるとリスク回避的(保守的)になり、負け組にいるとリスク好意的(リスクの高い行動をとる)ということを示唆している。


この考え方が妥当であることが、新社会人の意識調査から伺える。社会経済生産性本部が毎年実施している「新入社員意識調査」によると、いわゆる就職氷河期であると思われる2000年ごろには「入社した企業が第一志望だった」という割合が50.5%であったのに対し、2008年の調査では75.4%と、24.9ポイントも増加している。これは、就職の厳しかった2000年時点では多くの新入社員が、自分は就職活動においては、いろんな意味で「負け組」であるという認識を持っていたと思われるのに対し、売り手市場である2008年の時点では、自分は就職活動において「勝ち組」であるという認識を持っていると考えられる。


では、この負け組みと勝ち組の意識の差が、リスク志向にどう影響しているのかを見てみよう。まず、成果主義を支持するかどうか。成果主義というのは、給料が上下したり安定しないので、成果主義を求める場合はリスク好意的だといえるし、年功制などの安定的な人事を求めるのはリスク回避的だと言える。実際、2002年の調査では、成果主義能力主義的な賃金体系を求める割合が73.3%であったのに対し、2008年の調査では、57.7%まで下降している。つまり、勝ち組が多い2008年のほうが、リスクを回避して安定を求める「保守的」な傾向にあり、就職の厳しかった2002年の場合は、リスクを追い求める成果主義能力主義志向が伺える。


同じく、「この会社に一生勤めようと思う」という質問については、2000年の調査では、20.5%しかいなかったのに、2008年調査では、47.1%と半数弱にまで増えている。また、チャンスがあれば転職したいとう問いに関しては、2000年の調査では51.3%と半数以上だったのに対し、2008年では35.2%にまで低下している。転職というのはリスクの高い行為で、転職したからといって給料や待遇がよくなるわけではない。要するに、就職氷河期で負け組みだと思っていた層は、そういったリスクを冒してでも今の状況から脱出したいという希望を持っていたと考えられるわけで、まさにリスク好意的になっていたのであろう。一方、売り手市場で勝ち組の多い2008年では、すでに買っているので、あえてリスクを犯したくないという保守的な態度が顕著になっているのである。