企業づとめのサラリーマンが、キャリア転換の機会を逸してしまい、ずるずると受け身の会社生活を続けてしまうのには心理学的なメカニズムが関与している。受け身で仕事をしている会社人間は、何度か以下のような「変わりたい」思いを描くことであろう。
「変わりたい」と思うきっかけ
- 今働いている会社がいつ傾くかわからないから、そうなったときに生き残っていけるような力をつけておきたい
- 専門的知識を身につけ、あるいはすでに身につけた専門知識を最大限に生かすべく、会社内での専門職的なポジションに積極的に志願したり、専門知識が生かせる職場に転職する
- ひょんなことから転職話が入り込み、転職も選択肢の一つに数えてみる
- 海外勤務や特別な部署への異動など、キャリアの転機となりうる機会の打診がなされ、それを受けるべきか検討する
- 会社内で、自分にとってキャリアの転機となりうるような募集がなされる、しかしチャンスであると同時にリスクもあるので慎重に検討することにする
心理学的メカニズム(行動意思決定理論)
仮にキャリア・チェンジをすることが合理的であるとしても、人間には非合理的意思決定をしてしまう心理メカニズムが内包されている。
- あえて変化させるよりも現状を維持したいという心理
損失回避性
- 同じ度合いであっても、獲得よりも損失を嫌う
後悔回避性
- 短期的には、何らかのアクションを起こして失敗し後悔することを避けようとする
授かり(保有)効果
- いったん手に入れたポジションや経済的利益を通常より高く見積もる
時間バイアス(選好の時間的な逆転)
- 将来のベネフィットを過少評価し、目先の利益の獲得にこだわる(目先の利益に目がむらみ、将来のより大きな利益に目がいかない)
アンカー効果
- 自分の職業適性やキャリアの方向性をいったん定めてしまうとそれにとらわれてしまう
コミットメント効果
- いったんこの会社で最後まで働くと意思決定をした場合、いつまでもそれにこだわる
確証バイアス
- 自分が信じていることを確認するような情報のみを収集したり信じる
選択的知覚
- 自分に有利な情報のみを取捨選択して取り込む(信じる)
フレーミング効果(勝ち組効果)
- 勝ち組であると意識すると、リスク回避的になる
確率推定の過誤
- 自社が危なくなる確率を通常よりも低く見積もる)
自信過剰バイアス
- 自分はなんとかやっていけるという根拠の低い自信
コンコルドの誤謬・埋没コストの過大視
- 自分がすでに現在の会社・職場で投資した分がもったいないからキャリアチェンジができない
意思決定の延期(先延ばし)
- 選択の難しい選択肢が並ぶと(オプションが増えたりすると)、すぐには意思決定できなくなる(決定を先延ばしする)
- 目標設定効果
目標を低く設定してしまうと、それに満足し、キャリアを転換することで可能なより高い水準へのモチベーションが出てこない。