今の時代に「マーケット感覚」が求められるワケ

ちきりん(2015)は、私たちの身近な分野でどんどんと市場化が進んでいることを指摘し、これを「社会の市場化」と命名している。就職活動にしても、昔の学校推薦のような相対取引から、ネットの普及による市場取引へと移行し、婚活さえもが市場化しているという。ちきりんは、社会の市場化が加速していくからこそ、そのような社会で生きていくために重要なのが「マーケット感覚」だということを示唆する。


ちきりんによれば、マーケット(市場)とは、不特定多数の買い手(需要者)と売り手(供給者)が、お互いのニーズを充たしてくれる相手とマッチングされ、価値を交換する場所、と定義される。このような市場の構造を理解するための要素は、取引される価値、買い手=需要者(価値を入手する人)、売り手=供給者(価値を提供する人)、取引条件(価格など)である。そして、市場の動きを理解し、予測・利用するための要素としては、買い手と売り手が取引する動機、それぞれの要素に起こりうる今後の変化、市場の中で選ばれる方法、だという。


これらの要素の中で最も重要なのが「取引される価値を理解する」という部分だとちきりんはいう。マーケット感覚とは、その市場で取引されている価値が何なのか、感覚的に理解できる能力のことでもあるという。どのような価値が市場で取引されるのか。どのような価値の需要が、どの市場で高いのか。このようなマーケット感覚がないと、実は、市場を選べば高く取引される可能性のあるような価値を持ったものが放置されている、特定の市場で自分を高く売ることができるような価値を持っていながら、それに気づいていない、というような状況に陥るのである。


では、マーケット感覚を磨くにはどうしたらよいのだろうか。ちきりんは、5つを挙げている。1つ目は、プライシング能力を身に着けるということである。これは、まだ市場で取引されていない「潜在的な価値」に気づくための価値基準を手に入れることにつながる。2つ目は、インセンティブシステムを理解することである。人間の行動が何に動機付けられているのかの理解である。3つ目は、組織に評価されるのではなく、市場に評価される方法を学ぶことである。4つ目は、失敗と成功の正しい関係を理解することである。「失敗は成功のもと」といわれるように、端的にいえば、失敗とはスタート地点から成功までの途上に存在する学びの機会である。5つ目は、市場性の高い環境に身を置くことである。