「先物キャリア」とは何か

高橋(2012)は、21世紀の時代は「想定外変化」による予期せぬキャリアチェンジと「専門性細分化」の2つが同時進行する環境にあると指摘する。ひと昔前の工業化社会のパラダイムに基づく「管理可能性」と「予測可能性」極大化のキャリア論では、長期的な計画を綿密に立て、それを予定通りそれを実行していくことでキャリアデザインを積み重ねていけば成功できたかもしれない。しかし、想定外変化と専門性細分化の時代ではそれが不可能になってくる。そこで重要になってくるのが「キャリア自律」であるという。これは、絶え間ない変化の中でその都度、自分で切り開き続ける力を持つことにほかならない。


このようなキャリア自律の1つの例として「先物キャリア」の概念を高橋は紹介する。これは、時代の流れを読んで半歩先に踏み出し、自分のキャリアをその流れに賭ける行動である。先物キャリアの特徴は、まだ未知の分野であるがゆえに、半歩進んで試行錯誤を繰り返せば、完成度が低くても先人となれることだという。これは、専門性から深堀りするかたちでキャリア自律ができない場合に、あとからある分野の専門家と見られるよう「先物」に賭けるということである。


ただし、想定外変化の時代には自分の思ったとおりにはキャリアは作れないので、想定外のチャンスでもそれを活かしながら、振り返ってみると自分らしさが随所に出ているキャリアに落とし込むことも重要だと高橋は指摘する。クランボルツの「計画的偶発性理論」が示すように「人は自分の人生やキャリアを自分の思うように設計することはできないが、より好ましい偶然が起こる確率を上げることはできる」ということを忘れないことが大切だという。