未来の充実した人生の実現にむけて働き方をシフトする

グラットン(2012)は、自由で創造的な人生を送るためには、漠然と未来を迎えるのではなく、主体的に未来を築いていく必要性を説く。つまり、産業革命以来の大きな変化を迎えている今の時代において、いま起こりつつある変化に漠然と対応しているだけでは、孤独で貧困な人生が待ち受けているかもしれないと警鐘を鳴らすのである。豊かな人生にするためには、未来を予測し、働き方をシフトしていくべきだとグラットンは主張するのである。


もちろん、未来を正確に予測することなど不可能である。しかし、向こう数十年の未来を形作る5つの要因があるとグラットンはいう。それらは「テクノロジーの変化」「グローバル化の進展」「人口構成の変化と長寿化」「社会の変化」そして「エネルギー・環境問題の深刻化」である。これらの要因とさらにそれに関する32の要素が組み合わさり、絡み合うストーリーを描いてみることで、未来に関するいくつかの予測が立てられる。グラットンによれば、その未来には暗い側面もあれば、明るい側面もある。


こうした形で未来予想を立てた後は、それらに基づいた自分自身の未来ストーリーを描きだす必要がある。そして、将来に至る変化に押しつぶされないために、私たちは3つの「シフト」を行う必要があるとグラットンはいう。それは「広く幅広い知識しかもたないゼネラリストから、高度な専門能力を備えたスペシャリストへの<シフト>」「孤独に競い合う生き方から、ほかの人と関わり協力しあう生き方への<シフト>」「大量消費を志向するライフスタイルから、意義と経験を重んじるバランスの取れたライフスタイルへの<シフト>」である。


1つ目のシフトについては、ゼネラリスト的な広く浅い知識や経験は特定の企業でしか使えなかったり、ネット検索などで誰でも代用できるようになるため役に立たなくなる。よって、職業人生を通じて、自分が大切だと思うこと、自分が興味をいだける分野で高度な専門知識と技能を習得し続ける必要があるということである。2つ目のシフトについては、ソーシャルメディア等の進展によって通じて人間関係資本を築く方法が飛躍的に拡大する中で、強い信頼と深い友情で結ばれた少数の友人との関係を大切にしながら、自分とは違うタイプの大勢の人たちと繋がりあうことが大切だということである。3つ目のシフトについては、お金と消費は生活の基本としては必要ではあっても、それらに最大の価値を置くことは将来の時代にはそぐわなくなるため、創造的に何かを生み出し、質の高い経験を大切にする働き方に転換するのが大切だということである。