小説問題の説き方

石原(2002)は、そもそも小説はどのように解釈しても構わないジャンルに入るにもかかわらず、それが学校教育や入試で用いられるのは、「小説」としてではなく、ただ1つの解釈しか存在しない「物語」として読むことを期待されているからだと示唆する。国語という教科は、言語技術の習得というよりは、暗黙裡に「道徳教育」が意図されている。よって、学校空間や入試では、教育目的として「道徳的に正しい」物語が用いられる。国家として国民に身に着けてほしい道徳である。要するに「成長して立派な人間になりなさい」というメッセージがこめられた物語である。


石原によれば、中学入試や高校入試でよく用いられる小説(物語)は「少年(少女)が成長する物語」である。学校空間では、成長することが道徳的に善であり、成長のプロセスで登場する「先生」「父親」などは、強くて正しいことを行う人物として存在する。母親は、近代家族の枠組みの中で、愛情にあふれ、やや孤独で哀しい存在である。ただし父親と母親の役割の違いは「男は外、女は内」という近代家族の構造からきている。したがって、入試で小説問題を解くコツは、問題文を、「○○になる物語」「○○をする物語」というように一文で表現することである。そのときに、どのようなタイプの「道徳的に正しい物語」なのかを理解することである。それができれば、あとはそれに沿わない選択肢は除外し、それに沿った解答を選択したり作文すれば正解にたどり着けるというわけだ。


よく出される「主人公が成長する物語」「主人公が何かを学ぶ物語」では、その種類が「先生や父親を乗り越えて成長する物語」とか、「成長して母親の気持ちがわかるようになる物語」とか、「祖父母から大切なことを学ぶ物語」だったり、「兄弟や友達との友情を通じて成長したり学んだりする物語」であったりする。どれもこれもすべて「道徳的に望ましい」物語に限定されていることがわかる。その他のお決まりのパターンとしては、「形だけの」とか「偽の」といった関係が、「本当の関係」になる物語がある。「本当の友情」とか「本当の家族」のように、人と人とが信頼関係にあることが「道徳的に」正しいことなので、関係がそのように発展していく物語である。要するに、国家は、どのような人間を「立派な人間」と見ているかがわかれば、国語や入試において、それを教え込みたい、それを理解しているかを確かめたいのだということもわかる。


選択型の設問にはたいてい、正解と、それに近いダミーとの2つが含まれている。どちらが正しいか迷うような2つの選択肢が出てきたら、出題文を支配している大きな「物語」に立ち返ることだ。どちらも間違っているとはいえない場合でも、その大きな「物語」で教訓として伝えたい内容に沿っているものが正解で、そうでないものが不正解なのであろう。