リアリズム小説入門

石原(2002)は、小説とりわけリアリズム小説は「お約束」で成り立っている芸術だと言う。「お約束」は「基本型」といってもよい。例えば、直木賞は小説の基本型に忠実な作品が多く、芥川賞は、それに反逆するポーズをとるものが多いという。本来自由な読み方が許されるはずの小説が入試問題に用いられるときは、例えば国家が国民に諭したいなんらかの教訓に沿ったかたちで読むことが求められているわけであり、これが小説問題に取り組むときに知っておくべき「お約束」「基本型」ということになる。


リアリズム小説とは何か。大雑把に言えば小説は「フィクション(虚構)」である。フィクションは「大きな嘘」ともいえる。言葉によって、現実とは異なる自立した世界を作り上げているのが小説である。ただし、嘘といってもまったくの非現実的な嘘ではなく、そこに「リアリティー」が求められるのが、リアリズム小説の特徴である。いかにも現実に本当にありそうだと錯覚させる作品が求められている。


現代では、客観的な記述がリアリティを感じる条件となっている。よって、現代のリアリズム小説は、できるだけ客観的に描写している作品が多い。ただし、リアリズム小説は、目に見えるものだけを記述しながら、その内面にあるもの、例えば主人公の心情といったものを読み取ることを重視している。真のリアリティ(本当らしさ)は、その内面の部分を読み取ることによって感じられるものなのである。表現したいリアリティはあえて書かずに、目に見えるものだけの記述から読み取ってもらう。その技術が、小説が芸術たるゆえんなのだと石原は解説している。