タイトルの重要性

野口(2013)は、一撃で仕留める説得法の1つとして、命名やタイトルの重要性を指摘する。例えば、学術において、ヘンリー・キャベンディッシュは重力定数「g」の値を最初に測定した物理学者であるが、彼が実験結果を王立協会の学術雑誌に報告する論文のタイトルを「地球の密度を測る」としたことを紹介している。これは「重力定数の測定」というような平凡なタイトルに比べ、格段とセクシーで魅力的なのだという。ノーベル賞を受賞した山中伸弥教授の「iPS細胞」という命名も、「iPad」にあやかってつけたものだとされ、非専門家を含む多くの人の心を掴んだと指摘している。


野口は、タイトルにはせめて「問い」を、できれば「答え」をと主張する。例えば、「土星の輪について」ではタイトル失格である。「土星の輪はなぜできたのか?」は「問い」を発するタイトルであるので△、そして「土星の輪は小惑星の残骸」であれば、「答え」まで含まれているので○をつけられるという。


また、プロジェクトに命名することによってメンバーの士気が高まる効果も指摘する。うまく命名できれば、メンバーが団結して努力を結集できるというわけである。これは「タスク名」とか「コードネーム」と呼ばれ、「マンハッタン計画」「アポロ計画」などが例である。小さなプロジェクトでも、無味乾燥なプロジェクト名でなく、勇ましい名前にしてみたらどうかという。


プロジェクト名に加え、モットーやスローガン(標語、信条)も、他人だけでなく自分自身を説得し発奮させるのに有効であるともいう。例えば、フランスは「自由、平等、友愛」をモットーとし、EU(欧州連合体)のモットーは「多様性における統一」である。自分に何か計画があれば、それをプロジェクトに見立てて命名するのもよいという。


ただ、まったく新しい名前を作り出すのは難しいので、何かから「借りる」のがよい方法だと野口はいう。よく用いられるのは、動植物の名、地名、神話、歴史上の人名だという。星の名から借りるという方法もあるという。