激動の時代に生き残るための「学問のすすめ」

鈴木(2013)は、福沢諭吉によって書かれた「学問のすすめ」は、幕末の激動に次ぐ激動の時代に、いかに取り残されずにサバイバルするか、また日本の未来を確かなものにする変革に向けての「指南書」であったと解説し、そのエッセンスを紹介している。


学問のすすめ」では、国に依存できない時代のサバイバル戦略として、生き残るための武器として学問をとらえる。そのうえで、日本人を「社会的な個人」として目覚めさせ、日本を新たな栄光へと導く成功の本質を説くものだと鈴木は説明する。つまり、学問の目標は「個と国家の変革」である。学問を通じて個人が自立し、当事者意識を持つことで国も自立していくという考えである。国家とは本来、国民がつくるものである。国民が個人として独立の気概がなければ国を想う気持ちも弱く、国内で独立できなければ外国人に対しても頼りなく、さらに、独立の気概がなければ他人の権威を使って悪事をなすことがあるというのである。


そのような趣旨から「学問のすすめ」では、実学としての学問を重視している。つまり、学問をすることによって現実の人生にどう役立つのかを考えねばならないわけである。福沢諭吉によれば、そういった実学は(1)日常生活に役立ち、自分の付加価値を高めるスキルと(2)社会をより深く「新しい視点」で理解できるもの、の2種類を説いていると鈴木は指摘する。前者の例は、読み書きそろばんの類で、後者の例は、地理、物理、歴史、経済、修身などである。このような実学は、人生の自由を得るための「良質な武器」であるという。つまり、2種類の実学を通じて、生活に必要な「基本的なスキル」を磨いたうえで、「新しい視点」を得ることによって、次の時代に必要なものを見極め、切り拓いていくことが可能になるということである。


福沢諭吉がスキルとして具体的に勧めるのは、読書、物事の観察、文章の執筆、人との議論・交渉、自分の考えの説明、である。そして「価値を生む新しい視点」を獲得することで現実社会で劇的な飛躍をすることができるという。また、とくに時代の転換期に必要なのは「疑う能力(騙されない力)」「判断する際の本質を捉える基準」「一部の詳細で全体像を盲信しない」ことだという。


さらに、物事を成すためにはその分野で人から当てにされる人望が必要であるとし、想いを上手に伝える「言葉の技能」を学ぶべきだという。特に変革期は、「伝える力」と「交渉力」が重宝される。そもそも、人の幸福感の源泉は、他人と広く交際することであり、交際範囲を広げることは、人生を広げることだという。時に人間関係は痛みを和らげてくれるものであり、つながりがチャンスを生み出し、新たな英知を運んでくるというわけである。