戦略は「仮説」である

清水(2011)は、論理や分析を中心とするクリエイティブな頭脳労働によって合理的に策定された「戦略」が前工程としてあり、それを制度、ルール、仕組みによって、現場における手足を使った単純労働としての後工程として「実行」していけば経営は成功するといったような「戦略」と「実行」の差別化に異議を唱える。「戦略=トップの仕事、頭脳労働、恰好いい」「実行=現場の仕事、単純労働、誰でもできる」ではなく、実行は戦略の奴隷ではないと主張する。


むしろ、清水によれば「戦略」とは企業の未来に関する「仮説」である。戦略が「仮説」であるとすれば、その実行は顧客や競合の反応を通じて仮説を検証し、間違いを正し、さらに質の高い仮説を立てるという繰り返しにほかならないと説く。そしてその根底にあるのがコミュニケーションすなわち組織における人間のぶつかり合いではないかという。つまり、実行は、戦略の仮説を展開すると同時に、戦略立案段階で明確にできなかったこと、予想できなかったこと、あるいは間違っていたことをその実際の行動で知り、フィードバックを通じて、「戦略を練り上げる」プロセスでもあるというのである。


「実行」を「戦略目的を達成すること」であると定義するならば、それは立てた計画を粛々とこなすことではない。戦略=仮説であり、「未来に対する思いつき=ビジョン」なのだから、実行する中で得られる情報を取り入れながら、最終的に戦略という新しい会社の動きを完成させるプロセスであると説明する。そもそも「やってみなければわからない」ということである。


そして、戦略の実行においては、細部はどうしても試行錯誤にならざるを得ないため、各部署が道に迷わないための「戦略の核=北極星」が重要だという。清水によれば、組織の実行力とは、差別的で具体的なイメージとして共有できる「核」を作ることと、反対があっても各論を決め、実行に移せることである。つまり「必ずしも合意はしないけれど、納得をして決まったことを全力を尽くして実行していく」ことが組織の実行力であり、そのためにコミュニケーションが欠かせないのだという。