村社会型経営と都市アパート型経営


人材の流動化が進むということは、企業経営にどのような影響を与えるのか。企業は、流動化する労働市場に経営スタイルをあわせる必要があるから、外からやってきた従業員がすぐに仕事に取り掛かれるように、業務の仕組みを整備するようになる。人材のスペックが明確になって、特定のポジションには、特定の(市場価値のある)スキルをもっていれば仕事ができる、という状態に企業が変化してくる。


以前の終身雇用を前提とする村社会型経営では、住人がほとんど動かない村社会と同じで、実際に暮らしをしていくにあたっては、長い年月を経て形成されたさまざまな暗黙の掟とか行事とかがあったりして、よそ者が簡単に適合できない。このような状態を維持していては、流動化する労働市場に適合できない。人材が抜けた穴を中途採用で補充しても、その人材がすぐに仕事に取り掛かれない。企業内の暗黙のルールや文脈に慣れるまでに数年かかってしまったりする。


だから、村社会型経営は、人材が流動化すれば、都市部のアパート型の経営に移行せざるを得ないということだ。都市部のアパートでは、転勤族などが頻繁に出入りするので、アパートの部屋の作りなども画一化されており、転勤族が前の街ですんでいたアパートの部屋割りとほとんど同じである。だから、引っ越す際に家具のレイアウトで悩むこともない。大型スーパーや日用品を扱う店も揃っている。学校も転校生が多いので受け入れに慣れている。隣人同士が濃いつきあいをする必要もないし、暗黙の掟というものもない。引っ越してからすぐにでも生活を始められるように環境が整っているのである。


人材の流動化と都市アパート型経営への移行によって、企業の中・下層部の人材がコモディティー化し、命令を着実に遂行する機能と化し、どの企業も似たりよったりになってくるので、その層では他企業との差別化ができなくなる。よって、企業の頭脳部であるトップマネジメントによる経営戦略のよしあしが、企業競争力の主な要因となる。そうして、企業のトップマネジメントの頭脳が重要になればなるほど、企業のヘッドの部分と手足の部分が分離してくる。村社会型経営のように、企業が上から中・下層部まで全体にわたって、長期間とどまっている従業員による他企業とは違う持ち味が、差別化要因、企業競争力の源泉となるパターンが失われることになるだろう。