忠誠心・帰属意識・組織コミットメントはもう古い?

企業への忠誠心、帰属意識、そして専門用語でいえば組織コミットメント(情緒的組織コミットメント)については、それらが高ければ望ましいと一般的には言われるが、企業としてはもうそういった自社への愛着を期待しないほうがよいのではないだろうか。


組織コミットメントのJカーブ説というのがあり、入社後いったんは下がるが、その後勤続年数と共に組織コミットメントが高まる(会社への愛着が高まる)という説がある。ただしこれは、会社が同じ状態のまま継続的に推移し、かつ本人が年功的な運用のもとで順調に組織内の階段を上昇していく場合のみにあてはまることだと考えられうる。


例えば、かつて、東海銀行三和銀行東京銀行三菱銀行に入社し、それぞれの銀行に対する愛社精神帰属意識、組織コミットメントを高めていった人々は、現在のような三菱東京UFJ銀行になった場合に、どのように自分自身の存在と仕事への姿勢を意味づけしていけばよいのだろうか。愛社精神帰属意識というのは、自分の会社が他社とは違うのだというプライドが含まれているのが普通である。であるから、帰属意識の高い東京銀行の行員は、ウチは「東海」「三和」や「三菱」とは違うのだ、という思いを暗黙的に持っていたに違いない。ウチはほかとは違うのだというのが、その会社に自分を帰属させ、自社の発展のために血と汗を流すことを正当化したのである。


このような例が示しているように、組織コミットメントのJカーブ説が想定しているように、現在の会社がそのままのかたちで将来も存続するという保証は現代のビジネス社会にはない。合併したり買収されたりして、社名や人員構成も大きく変わってしまうこともありうる。また、企業経営者は必ずしも「同じ釜の飯を食べた仲間」から選出されるわけではない。業績如何では、今回は、変革がテーマだから、外部から経験豊富かつフレッシュな経営者を連れてくるべきだという議論のもと、古参の社員から見れば「まったくのよそ者」が社長になり、自分達の上に居座って命令することだってありうるのである。


会社への忠誠心や帰属意識を高めるための企業経営をしてきたのならば、このようなシチュエーションになった場合の忠誠な社員に与えるダメージは計り知れないのである。