圧倒的な違いを生み出すアイデア・ブランド

ムン(2010)は、圧倒的な違いを生み出し、人々に愛される優れたブランドをアイデア・ブランドと呼び、以下のように、その考え方の3つの例をあげている。


1つ目の「リバース・ブランド」は、ある商品カテゴリーが同じ方向での機能拡充に凌ぎを削っているのを半ば無視する形で、余分なものを大胆にそぎ落としたり、予想もしないかたちでぜいたくなものに変えたりして、カテゴリーにおける非凡なポジショニングを獲得するようなブランドである。例えば、あふれんばかりに情報やサイトの入り口を配したポータルサイト戦争に遅れてやってきたグーグルは、トップページに検索窓しかないというシンプルなものだった。リバース・ブランドは、きらりと光る独特の品質を提供するとともに、他の部分を思い切ってそぎ落とすという、基本と卓越性の融合であるとムンは指摘する。


2つ目の「ブレークアウェー・ブランド」は、消費者が持っている既存の商品分類を覆すことによって分類を書き換え、商品を再定義させるようなブランドである。例えば、ソニーAIBOは、ロボットという商品の枠組みを、ペットという別の消費者になじみの深い商品の枠組みに書き換えることによって成功した。スウォッチは、ジュエリーとして捉えられてきた高級腕時計を、日常のファッションとして書き換えることによって成功した。消費者にとってなじみの深いカテゴリーと、別のなじみの深いカテゴリーと組み合わせるのである。あるいは、消費者が飽き飽きとしている商品カテゴリーに、フレッシュな視点を提供する。「食べるラー油」もその例であろう。


3つ目の「ホスタイル・ブランド」は、好感度に背を向け、消費者に媚びることせず、あくまで自己主張を貫き、挑戦状をたたきつけるようなブランドである。例えば、ミニクーパーという車は、消費者が気にするような車体の小ささを、むしろことさら強調することによって成功した。アウトローブランドとしてのハーレーダビッドソンもそうである。摩擦や対立を恐れない、尖がっているからこそ、特定の層から支持されるというメカニズムが働いているのであろう。