勝間氏の才能

勝間和代さんの著作がブームであるが、彼女の優れたところは、的を得た分かりやすい例えを用いることによって説明する技術を持っているところであると考える。


例えば、勝間(2009)では、サブプライム問題に機を発した金融危機について、以下のように説明している。

つまり、「見えない糸」で、すべての人の心の中の動きがつながり、どこかの小さなさざ波が互いに波及しあい、まるで、マイクとスピーカーをうっかり向かい合わせにしてしまったことによって大きなハウリング音が発生するかのように、変化がつながり、リスクが増大していくのです(p10-11)。

複雑で難解な最近の金融マーケットと、誰もが知っていて想像しやすい「ハウリング」を結びつける発想は、とりわけ近年の金融マーケットが持つ特徴(というか危うさ)をうまく捉えており、素晴らしい。


また、日本企業の「終身雇用」が時代にそぐわなくなっていることを示す理由として、「すべての会社がマクドナルドのようになってしまった(p45)」という表現を用いて、「一定のマニュアルがあり、温度管理と作業管理さえしっかりしていれば、誰でも数週間のトレーニングでほぼ同じ品質のハンバーガーを低価格で供給できるようになっている」ため、終身雇用で人を抱え込む必要がなくなったことを指摘している。確かに、企業が大きくなり、業務が自動化、標準化されることは、安定した高品質の製品やアウトプットを提供できる(=顧客からの支持を得る、企業利益につながる)ことにつながるわけだが、それは、まるでファストフードチェーンのように、高校生のアルバイトでも回していける業務にしていくことでもある、ということをうまく言い当てている。


勝間(2009)では、今の日本の社会制度を、江戸時代の「士農工商」に例えているところも面白い。士は政治家、官僚に対応し、農はサラリーマン(大企業のサラリーマン社長もおそらくここ)、工は技術者、商はおそらく、自営業や起業家、オーナー社長であろうか。そして、東京大学では、お上(=士)に行く確率が高い法学部の偏差値がもっとも高く、人文系でその次は経済(お上=士の候補生が財政政策を学ぶところ)。そして「下々のための勉強をする学部」である商学部は東大にはないと説明している。