外向きの人事部とは、いかにして企業を発展させるか、そのためのビジネスのしかたや顧客や外部ステークホルダーを見据えた仕事をする人事部であると述べた。http://d.hatena.ne.jp/sekiguchizemi/20061107
ということは、企業の人事は、その企業のビジネスと直結していなければならない。ビジネスの方法が各社異なるならば、人事システムも各社異なっているはずであろう。なぜなら、異なる各々のやり方にもっとも適した方法も異なるだろうからである。しかし、なぜか、そうではなく、どの企業の人事システムも似通ってくることがある。これは人事が内向きになっている証拠である。
簡単なテストをしてみるとわかる。まったく異なる業界やビジネスに属する企業を2社選び、その企業の業界やビジネスを伏せたうえで比べさせる。果たして、この匿名2社がどの業界に属するのか、どんなビジネスをやっているのか、人事制度のみを比べて識別できるだろうか。あるいは、少なくとも、この2社の人事システムは根本的にかなり異なっているということを認識するのだろうか。それとも、どちらも似たり寄ったりで、どの業界に属するのかもわからないし、そもそもまったく異なるビジネスをやっている会社だとは想像もつかないとうことになるだろうか。もしも、後者ならば、これらの企業の人事が内向きであることの現れではないだろうか。
であるから、外向きの人事部は、当然、自分の会社が行なっているビジネスを熟知していなければならない。そして、そのビジネスをより効果的に行なっていくためには、何が必要なのかについても理解していなければならない。そして、その必要性を満たすために、人的な視点からどうサポートすべきなのかについても、よく理解していなければならない。それが理解できてこそ、その会社にユニークな人事が行なわれるのである。もしも、このような視点で人事が行なわれていたら、どの業界にいるのかもわからない似たり寄ったりな人事にはならないはずではなかろうか。
もちろん、人事システムには、どの企業にも共通するような部分はあるだろう。賃金の仕組みとか、基本的な部分は似通っているかもしれない。しかし、その部分に多大な労力をかけるよりも、他との差をつける部分、顧客にユニークな価値を提供するのにつながるような部分の設計に時間をかけるべきではないだろうか。例えば、賃金の微小な差のつけ方の設計について時間をかけすぎたりするのは、社内の従業員間の公正な処遇に配慮してのことかもしれないが、そもそも、従業員が、自分と同僚の微小な給料差を気にするようになっていること自体、気持ちが内向きである証拠ではないだろうか。
仕事がとても楽しく、会社もどんどん成長しているときには、従業員は、給料がある程度の水準を越えていれば、自分の給料の微小な動きなどあまり気にしないのではないだろうか。同僚とのちょっとした差など、誤差としか感じないのではないだろうか。それよりなによりも、面白い仕事、わくわく感、自身の成長、お客様からの感謝の声、といった多大な(非金銭的)報酬を受け取りながら仕事をしているのだから。そのような(非金銭的な)報酬を受けとれない従業員は、その埋め合わせとして、どうしても、給料の部分に目がいってしまうのではないだろうか。