タテ社会のメカニズム

中根(2019)は、自身のロング&ベストセラー「タテ社会の人間関係」を振り返りつつ、前著の要点を簡潔に説明している。第一に、中根が主張する、日本にみられる機能集団構成の特色は、その人が持っている個々人の属性(資格)よりも、「場」(一定の個人が集団を構成している一定の枠)による要素が強いという点である。そして、このような機能集団でのキー・コンセプトである「先輩・後輩の秩序」について以下のように解説する。

 

まず、集団が形成されることとなる「場」に最初に着いたもの(A)が頂点となり、次に着いた(B)はその下位となる。Bの次はCとなり、このようなタテの関係が、変更を許さないシステムを生む集団構成の原則となると中根はいう。このような先輩・後輩関係は、年齢に基づく長幼の序とは異なる。年齢を問わず、あくまで「その場にいつ入ったか」という順番が大切で、それが序列の基礎となっている。場に来た順番に基づく先輩・後輩が「場」において組み合っているのが「タテ社会の人間関係」である。

 

中根のいう「タテ社会」の「タテ」というのは、上から下への権力関係を表したものではなく、上と下が組み合っている関係を表現したものである。うまく組み合っていれば、下位のものが上位の者に遠慮なく発言したり、上位の者が下位の者から自分の弱点を指摘されても甘受できる。つまり、上下ともに強い依存関係が生じ、「甘え」が許される。このような関係を可能にしているのが「場」だと中根はいうのである。

 

このようにして「タテ関係」を理解すると、今度は、タテ社会における「ヨコ」の人間関係の本質も見えてくる。企業でいうならば、先に入社した先輩、後で入社した後輩がいる一方で、同じタイミングで入社した「同期入社組」がいる。「同期」という意識は、先輩・後輩の序列意識と密接不可分だと中根は説明する。中根によれば、個人と個人を結ぶ関係を「タテ」だとすれば、ヨコというのは、大きなベルトのように層をなしている。つまり、中根によれば、ヨコの場合は、個人ひとりひとりがヨコに結ばれているわけではないということになる。同質のもの全体が大きな階層という同じ枠の中におさまっている状態をヨコと表現しているのである。

 

中根は、同じ「場」を共有するタテの関係で核心といえるのが「小集団」だという。そもそも「タテ社会の人間関係」で伝えたかったことは、第一に、日本の社会構造は小集団が数珠つなぎになっていること、第二に、その小集団が封鎖的になっていることだったという。日本の職場においては、社員はリーダー格であれ新人であれ、職場の小集団に全人格的に参加することが要請され、閉ざされた小集団という世界で論理よりも感情が優先される人間関係に基づいて仕事をする。そのような人間関係のなかで、上位による下位の保護は依存によって応えられ、温情は忠誠によって応えられるというわけである。

 

このような人間関係のなかで安心してつきあえる仲間を「ウチ」とし、集団の外に位置している人々を「ソト」として区別するのも日本社会の特徴だと中根は指摘するのである。

文献

中根千枝 2019「タテ社会と現代日本」 (講談社現代新書)