成功とは集団的現象である

私たちは、成功したいと願い、成功を目指して努力をするし、実力を身に着けようとする。しかし、知っておくべきことがある。バラバシ (2019)によれば、成功とは「個人的なものではなく集団的なものであり、あなたが属する社会の反応を必要とする」ということである。つまり、私たちが個人的な成功を望むのであれば、成功とは集団的現象であることを理解しておかなければならないのである。バラバシは、パフォーマンスと成功を違うものとして扱う。成功は、社会から受け取る報酬だから、社会があなたのパフォーマンスをどう捉えるかが決定的に大切だというわけである。


このような成功の定義もしくは大原則と、ネットワークの科学をベースとした客観的事実から、バラバシは、いくつかの科学的裏付けのある成功法則を導いている。まず、「パフォーマンスの定義や測定が明確な職業や業界においては、パフォーマンスが成功を促す」。プロ野球選手やプロ・ゴルファーがよい例である。これは納得できるだろう。しかし、「パフォーマンスが分かりにくい職業や業界においては、ネットワークのあり方が成功を促す」とバラバシは指摘する。例えば画家である。パフォーマンスの測定ができないあるいは曖昧な時は、例えば、社会におけるオピニオンリーダーとかキュレーターの意見に集団心理が影響を受け、それらに基づく評判などが社会に広がることで、成功を促すわけである。よって、本人がどのような社会的ネットワークにおいてどのようなポジションにいるかも成功には欠かせないということである。


また、成功が集団的なものであって、社会ネットワークの影響を受けるということは、いったん評判が高まれば、ネットワーク効果も相まって乗数的に広がっていくことも可能である。最近の新型コロナウイルスのケースを持ち出すまでもなく、社会ネットワークでは、物理的なものであろうと社会的なものであろうと何かが一気に伝染し、勢いがつくと簡単には止められないということがよくよくある。このことから、「パフォーマンスには上限があっても、成功には上限がない」という次の法則が導かれる。昨日まで一般人にすぎなかったある人物が一夜にして有名人になり、あちこちで引っ張りだこになることだってあり得るということである。これも、成功とは集団的現象であるという命題と整合的である。


そして、成功は成功を呼ぶという社会的効果と、パフォーマンスが社会から好意的に受け止められるか(役立つと思われるか)といった適応度が組み合わさると、爆発的な成功をもたらす可能性があることもバラバシは示唆している。つまり、「過去の成功×適応度=将来の成功」という法則である。これは、成功は集団的現象であるから、誰を支持すればよいかわからない大衆は過去の成功者に着目したり、オピニオンリーダーの意見に引っ張られたりするからである。つまり、一般大衆の偏見も、爆発的な成功に一躍買っている可能性があるわけである。そして、並外れた適応度(世間からみて質の良いもの)があれば、社会的影響をはねのけて社会からの支持が得られるとバラバシはいう。よって、この2つが組み合わさると鬼に金棒というわけである。


また、集団的心理や人間が持つバイアスなどを考慮すると、次の法則である、「チームの成功にはバランスと多様性が不可欠だが、功績を認められるのは1人だけ」ということも理解できる。チーム全体のパフォーマンスであっても、特定の人物に脚光が当たってしまうのである。そして、バラバシによる最後の法則には勇気づけられる。それは、「不屈の精神があれば、成功はいつでもやってくる」という法則である。年齢は成功には関係ない。大事なのは、Qファクターと呼ばれる、アイデアを形にする能力である。つまり、何歳になっても粘り強く、Qファクターを活用して次々とアイデアを形にしていく作業を続けるならば、その中のどれかがうまく評判を広めるネットワークの網にひっかかり、成功をものにすることができるということである。数打てば当たるではないけれども、成功の直接的原因である集団的反応にスイッチが入る確率を高めるために、たくさんアウトプットを出し続けるということが大切なのである。