経済を動かしているのは地理である

宮路(2017)は、地理とは地球上の理であり、地理とは現代社会そのものを学ぶ科目であり、経済を動かしているのは地理であるという。地理は学ぶ分野が多岐に渡りすぎていて、一体何を学ぶのかが見えにくい教科であるが、実は、多くの事項を学んでいく中でこれらの知識がつながり、現代世界が見えてくるのだという。宮路によれば、地理の学習は、地形や気候といった「自然地理」に始まり、農林水産業や工業、人口、都市、交通・通信、人種・民族といった「人文地理」を学び、これらを国や知識ごとに編み直した「地誌」で総括する。つまり、自然環境が分かれば、それを背景に展開される人間生活が見えてくる。人が集まり地域が形成され、そこに経済が生まれる。そして地域は結合して国家になる。地理が分かれば、1つの国の社会・経済状況も理解できるというわけである。


では、具体的に経済を動かしているのは地理というのはどういうことだろうか。宮路は、「経済とは土地と資源の奪い合い」だと主張する。土地と資源には限りがあり、有限だからこそ、需要と供給によって価値が決まる。そして需要が生まれた結果、土地や資源の争奪戦が始まるわけである。例えば、世の中の資源には「偏り」があるため、世界中で資源が利用・採掘できるわけではない。水資源に恵まれた地域、原油に恵まれた地域、希少資源を多く擁する地域などさまざまである。そのような資源を獲得したり、運んだり、購入したりして、自国の経済に役立てるためには、立地が非常に重要になってくる。とりわけ立地は輸送経路やコスト、貿易のあり方とかかわってくるし、宗教対立や国際紛争などの影響を受けやすい場所もある。国や地域にとっては、地の利を生かした経済政策が重要になってくるわけである。


また、国土面積が大きい国は、資源大国となりやすく、国際経済においても国際政治においても強い立場をとることができることを宮路は示唆する。小国であっても、ノルウェーのように水産資源、水力発言、原油天然ガスなどの資源を有する強みを盾として、EUに加盟せず独立独歩の体制を維持できている国もある。また、現在資源大国として強い立場にある国でも、ボツワナのダイヤモンドのように将来枯渇するリスクを抱えている場合には、国力を維持するためにダイヤモンド産業以外の他産業の成長が必要である。


宮路は、貿易は土地と資源の絡みにおいて世界中で行われている駆け引きだという。例えば、自国の産業を育成するためには保護貿易政策が必要であるし、二国間や多国間の貿易協定を結ぶ場合にはお互いにとってメリットがあることが重要である。また、国土が大きな国の場合、自国内で資源を輸送するコストが膨大になったり、資源大国であっても自国の人口が少なく産業としての採算が合わないなどの理由で、豊富な資源をあえて自国利用せず、海外に輸出することで利益を稼ぐというケースもある。さらに、人口が増加している国では、食料供給量を確保するため、あるいは国民の食生活が豊かになるなどの理由で食糧輸入が急増している国もある。


そして、人口というのも経済にとっては重要な要素である。宮路によれば、人口の増加を決めるのは、就業機会と食料供給量である。日本のような資源小国でも、人口が多いことが国内需要を増大させ、内需依存型で強い経済を維持することができてきた。また、教育水準の高さも、技術水準の向上につながり、資源に恵まれなくても強い国を作ることにつながる。


上記の例から、経済は地理によって動かされていることがわかる。それぞれの国や地域を取り囲む自然は、地球が人類に与えた「土台」である。その土台は、その国や地域の経済活動や他との経済関係の基礎となる。国土面積が広い、雨が多い、鉱産資源に恵まれるなど、人間の経済活動の「土台」を与えてくれる土地は、人類にとって「よい土地」であるともいえる。そして、自然地理では、自然環境の地域性を学ぶが、自然環境に最適な形で人間の文化が発達するため、自然地理を学ぶことで人間生活が見えてくる。つまり、地理、文化から、人々の衣食住の地域性が分かる。また、立地の考察でもわかるように、地理学は、地政学を学ぶのに最も適した学問でもあるのである。