ヨーロッパから生じた「近代社会」がヨーロッパを衰退させた

佐伯(2015)は、「近代社会」とはヨーロッパが生み出した希望の上に展開されてきたものであるにも関わらず、その近代社会によって、ヨーロッパが没落せざるを得なくなったのだというパラドクスを解説している。ヨーロッパの「近代」は、その「近代」の必然的な結果として、母体であるヨーロッパを衰退させていくのだという。それは何故かというと、ヨーロッパが生み出したものが普遍性を持っていたがゆえにヨーロッパ以外に拡張していき、それによって相対的にヨーロッパが没落することになったからである。以下、もう少し詳しく説明しよう。


佐伯によれば、ヨーロッパの生み出した近代国家の論理は非常にロジカルに構成されている。それ自体が理性的であって、論理的に議論を進め、機械か何かを構成するかのように国家を構成しようとする。ここにヨーロッパ近代の強さがあって、個別具体的なものを具体的に記述していくのではなく、物事を論理的に構成しようとする。論理自体がある程度、普遍性を持っているため、論理的に構成された議論はそれ自体が普遍性を持っている。


例えば、市民社会のあり方について、「人間の自由」から出発して論理を組み立てると、自由や民主主義や基本的人権を擁護する近代市民社会という理念が導かれる。そして、論理的なゆえにその理念は普遍性を持っている。そして、このような普遍的な理念に到達したヨーロッパから、ヨーロッパ以外の遅れた地域に対して啓蒙し、強化しようとする使命感に基づく「啓蒙主義」が誕生したわけである。これによって、ヨーロッパの生み出したものが「世界化」され、その結果、ヨーロッパが「世界」によって逆襲され、相対的に地盤沈下することになる。


このプロセスをもたらしたのが、ヨーロッパが生み出した国であり、ヨーロッパ的なものを継承した「アメリカ」と「ソ連」の存在であると佐伯は論じる。アメリカもソ連も、ヨーロッパの階級社会、貴族支配、王侯支配を否定し、排除し、それに対する反抗によってできあがった「実験国家」である。アメリカの自由主義・民主主義も、ソ連の平等主義・社会主義も、ヨーロッパの近代思想の延長戦上に位置するものであった。また、アメリカもソ連も技術力で産業を展開し、経済的な産業力を高めることに大きな価値を見出すという「技術志向」「産業主義」を発展させたのである。しかし、この志向もともとはヨーロッパによって生み出されたものだったのである。


結局、冷戦の終焉でソ連が崩壊し、残ったのはアメリカであったが、このアメリカが現代文明の重要な局面を典型的に象徴しているのだと佐伯は指摘する。このように眺めると、そこに広がっている光景は、ヨーロッパ近代の没落であったのである。