壮大な実験国家としてのソビエト連邦

1917年の革命から生まれ、1991年に崩壊した社会主義国家としてのソビエト連邦ソ連)は、20世紀の歴史上に巨大な存在感を持っていると松戸(2011)は指摘する。


松戸によれば、ソ連は、啓蒙主義社会主義マルクス主義というヨーロッパ近代に生まれて発達した思想を受け継いで成立した国家であり、ヨーロッパ近代の発展を可能として資本主義経済の歪を克服することを目標に掲げた国家であった。そしてまた、これもヨーロッパ近代の産物である民族自決という思想を受け継ぎ、少なくとも形式的には民族自決の実現を試みた国家であったという。つまり、ソ連は、ヨーロッパ近代の理念や制度のなかから生まれたと同時に、そうした理念や制度に対抗しようとした国家であったといえる。


ソ連が掲げた社会主義マルクス・レーニン主義は、貧困や搾取、階級対立など資本主義に強く見られた矛盾や問題を解決する処方箋であるかのように受け止められ、ソ連の計画経済が、優先すべき分野に人的物的資源を注ぎ込むことによって大規模な工業化と軍事大国化を成し遂げたことから、第二次世界大戦直後や1950-1960年代に独立を果たした諸国には魅力的に映り、親ソ国を増やしたと松戸はいう。これにより、西側先進資本主義諸国が、社会主義の要素を取り込む社会政策を実施した福祉国家化することを促したという。東西冷戦、東西間競争の下、ソ連福祉国家政策を実施していた以上、西側諸国も対抗せざるを得なかったということである。


上記のような意味でも、日本を含む西側先進資本主義国にとっても、ソ連社会主義という「対抗文明」の存在と役割は決して無視できるものではなかったというのである。しかし、ソ連の壮大な実験は、多大な困難と犠牲を自国民に、そして時には他国民にも強いた末に失敗に終わったのだと松戸は結論づける。ソ連という国家は20世紀の歴史上、実に壮大な実験国家であったわけだが、このような失敗は決して繰り返されるべきではない。だからこそ、ソ連の歴史に学び得ることを見出し、学び尽くす努力をすべきであると松戸は言うのである。