これからのエリートだけが知っている働き方

吉沢(2014)は、ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授を初めとする論者の視点として、これからの時代は既存の職業が消滅し、次々と新たな職業が誕生する、一生涯、1つの仕事、1つの専門性で過ごすことができる人は皆無になる、自らの職業人生は、最後まで予測し予定することはできない、ということを指摘する。これらの前提に立ったうえで、これからの時代にビジネスエリートとして活躍できるようなスキルを磨いていくためには、以下のようなステップを踏むのがよいという。


吉沢が示す第一のステップは、目先の仕事に集中することである。これは「一流のプロスポーツ選手が、シーズン中にその競技に120%集中してすべての時間を使い、自分の限界を超えたところで勝負する水準」を指している。これは、言い方を変えれば、「フロー状態」をもたらすレベルの仕事への集中・没頭である。これを実現するために、締切効果を利用することの有効性も吉沢は指摘する。その時の自分にとって、ぎりぎり少し難しすぎる難易度の仕事に取り組むために、あえて難易度の高い締め切りを設けて自分自身を追い込むことである。また、目先の仕事に集中するということは、一方で、プライベートにおける家族やパートナーとの関係にもエネルギーを注ぎ、長期安定的な関係を築くことの重要性も示唆している。プライベートも充実させることにより、仕事への過度な傾倒を防ぎ、気分転換や適度な休養が可能になるというわけである。


目先の仕事への集中は、新しい企業への誘い、起業への参画、社内の異動など、新たなる機会への誘いにつながると吉沢はいう。仕事上でスポーツ並みに120%まで能力を発揮している人というのは、現時点ではまだごく一握りだけであるため、否が応でも目立つようになり、様々な人が「この人材に、何かをやってもらいたい」という期待値が高まってくるからだという。他者からの新しい仕事や機会へのオファーに直面した時、1つ1つの機会の取捨選択を適切に行い、決断すべきときはしっかりとした決断を行うことが、未来の仕事の仕方として重要になってくるという。そのために、世界旅行や読書によって視野を広め、自分が果たすべき役割を考えることが重要だという。そうすることで、自分に舞い込んでくる様々なオファーや機会に対して「自分が果たすべき役割に合致しているだろうか」という判断を直観的に行い、それに基づいた仮説思考を行えるようになるからである。家族やパートナーとの合意形成を可能にするための地ならしを普段からしておくことも大切だという。


変化の機会に従い、環境の変化を受け入れる決断をしたならば、自分が去る環境に対しては最大限の配慮をし、他の変化要素は最小限に抑え、新たな環境では仮説に拘らないことが大切だと吉沢はいう。どんなに新たな旅立ちに理屈があったとしても、残される側にはダメージが残る。したがって、少なからず周囲へは迷惑とダメージを与えるという前提に立ち、残る人たちへの傷を最小限に抑え、将来にわたってよい関係が構築できるようにすることが大切だという。また、何か重大な変化を受け入れるときは、できるだけ「何を変えないか」という点にフォーカスをあてることも重要なポイントだと指摘する。人間の集中度合い、精神エネルギーの総量は一定なため、他の変化を一緒に取り入れないほうがよいからである。そして、最初の仮説にこだわらず、試行錯誤を通じ、それなりの時間をかけて新しい環境にフィットしていくことも重要だという。