コンセプト創造で勝つ

伊丹・宮永(2014)は、技術開発と並ぶ技術経営(MOT)の重要なテーマとして「コンセプト創造」を挙げる。コンセプトは、製品はおろか企業の命運すら決めてしまう。「いいコンセプトを創ることこそ重要」「コンセプト創造からすべてが始まる」というのである。


では、良いコンセプトとはどんなものか。伊丹・宮永によれば、良いコンセプトが持つ条件は「聞いて驚き、使って驚くという伝染効果があること」「驚くだけの技術と仕組みの裏付けがあること」「許容範囲内の価格設定であること」である。


ヤマト運輸の宅急便を例に挙げれば、まず良いコンセプトは分かりやすい言葉で表現される。「電話ひとつで、翌日、確実にお届けします」という宅急便のコンセプトはそれに値する。また、宅急便という当時は「そんなバカな」というコンセプトの背後には、確率論に基づくトラフィック理論というしっかりした技術に基づいたネットワーク構築があった。そして宅急便は、家庭の主婦にとって許容範囲の価格設定であった。


そして伊丹・宮永は、良いコンセプトを創造するために必要なのは「ニーズとシーズの相関構想力」「簡潔な言葉で表現する言語表現能力」「コンセプトを実現する技術力」だという。


さらに、良いコンセプトには、自己を変容する進化のダイナミズムがあると伊丹・宮永はいう。良いコンセプトほど他社に模倣されるため、よってコンセプトを継続的に生み出し続けなければならない。この点において、良いコンセプトには、コンセプトが進化し、コンセプトの進化が企業の進化を促し、それがまた新しいコンセプトにつながるという、コンセプトと企業の双方を進化させるダイナミズムが備わっているというのである。


伊丹・宮永によれば、コンセプトの進化の源泉には3つあり、1つ目は、技術の進化を源泉とする自己変容プロセス、2つ目は、利用者による発見的進化、そして3つ目が、製品とサービスの融合による進化である。良いコンセプトというのは、進化し、やがて社会全体を動かす原動力になるというのである。