ビジョナリーワードは「未来からの絵ハガキ」

細田(2013)は、新しい時代、新しい組織、新しい商品を生み出した「熱狂的なストーリー」の始まりは、いつだって「魅力的な一行」だったという。例えば「1000曲をポケットに(iPod)」や「地上でいちばん幸せな場所(ディズニーランド)」のような言葉である。それは「見たこともない風景には言葉が真っ先にたどり着く」ことを示しており、「言葉を使って未来をつくる」ということでもあるという。これらの言葉は、「物事の本質を設計する、いわば骨格を形成する」ためのものだというわけである。


こういった未来を作る言葉、突破する一行を「ビジョナリーワード」と細田は読んでいる。ここでいう「ビジョナリー」とは、「先見の明がある」とか「洞察力がある」のような未来予測に近いものとは少し違い、「こんな未来にしたい」「未来をつくる」という「未来意志」を表すものであることを細田は指摘する。つまり「よりよい世界への展望」が「確信に満ちた言葉」で語られるようなものを指して、ビジョナリーワードと言っているのである。


細田によれば、魅力的なビジョナリーワードは、未来からの絵ハガキのように、鮮明で魅力的な景色を見せるものである。言葉には誰も見たことのない風景を見せる力があり、それによって人を未来へとかき立てるわけである。このような視点から、ビジョナリーワードに求められるのは「(1)解像度」「(2)目的地までの距離」「(3)風景の魅力」ということになるという。そして、このような言葉をつくる方法は、次の4つのプロセスで捉えることができるという。

  1. 「現状を疑う」(普段の生活やビジネスシーンで「本当にそう?」と問いかける)
  2. 「未来を探る」(「もしも?」を繰り返すことで未来を様々な角度から眺め、可能性を探る)
  3. 「言葉をつくる」(あれこれと広がった妄想を「つまり?」で答えられるシャープで解像度の高い言葉にする)
  4. 「計画をつくる」(「そのために?」を時間軸に落とし込み、絵ハガキを旅程表に変える)


また細田は、新しい言語表現を考える方法として、「呼び名を変える」「ひっくり返す」「喩える」「ずらす」「反対を組み合わせる」の技法を紹介している。さらに、計画については、あるべき未来を起点にして現在を鑑みる「バックキャスティング」の重要性を強調する。ビジョナリーたちの多くが「現状を分析する」フォアキャスティング的な行為を賢く無視していると指摘する。先に理想の未来を設計し、そこから逆算して現在の行動に落し込むわけである。