美術の本質

齋藤(2009)によると、美術の歴史をざっくりと概観するならば、洞窟壁画のようなものから始まり、人間を描くギリシア・ローマ時代を経て、宗教絵画の時代へと移行した。やがて写実的な「うまさ」を追求する時代へと移り変わり、印象派を経て、個性の時代、アイデアの時代へと変遷してきたといえる。その中でも最も大きな変化は「写実」から「抽象」であり、齋藤は抽象絵画と写実絵画をつないだ画家としてポール・セザンヌを挙げる。


写実と抽象はまったく違うものに見えるが、実はエネルギーや力、運動性というものを描くという点でつながっていると齋藤は指摘する。そして齋藤は、絵画という見えるものと、そこに込められた見えない力との関係を考慮するならば、絵画の歴史というのは、魂や力、エネルギーといった見えないものの表現をめぐる歴史なのだという。美術には、その時代の人たちが、宇宙や自然、そして生命をどのようなものとしてとらえているのか、その時代の感覚が反映されているというわけである。


画家はみな、そこに生きて動いている生命を表現することを目指しているという点で、一見時代とともに変化しているように見えても、根底にあるものは変わっていないと齋藤はいう。抽象絵画も写実絵画も、目に見えないエネルギーを表現しようとしているのである。


次に齋藤は、画家がなぜ絵を描こうとするのかという視点を説明する。すばらしい画家は、描かずにはいられないから描いているのだと説明し、私たちが考えている以上に、根本的な人間の衝動につながっていると指摘する。これは自らの生命を確認する作業でもあり、生命それ自体を感じられる行為なのだという。これは単に生命に触れるだけでなく、生命を自分でとらえ、再創造するという神のごとき作業でもある。絵画という非生命的な物質世界において生命を再創造するということであるから、すざまじいチャレンジなのだという。


だからこそ、エネルギーを感じられる絵画はすごいのだと齋藤はいうのである。