外山(2010)によれば、科学上の新しい知見を「発見」といい、これまでなかったものを新しくつくりだすのが「発明」である。そして、発見も発明も、その発端のところはアイディアだという。アイディアには独創性が秘められており、アイディアは発見、発明に通ずるところの独創だという。では、どのようにすれば、アイディアを生み出せるのだろうか。
まず、アイディアはいったいどこから生まれるのかの理解が重要である。外山によれば、アイディアは生み出そうと思って生じるものではない。思いもかけないときにひょっこり出てくる。たとえば、「歩いているとき、眠っているとき」「ほかのことをしているとき」「三上(馬上、枕上、厠上)」「三中(夢中、散歩中、入浴中)」などを挙げている。そして、アイディアはいつ、どこで、突然飛び出してくるか知れず、一度逃したら後の祭りなので、あらわれたらすかさずとらえる(メモをする)ことが重要だと説く。たえずメモがとれる状態にしておき、メモを見返す、整理することが肝要だという。また外山は、アイディアづくりには忘却が必要だという。頭の掃除をしないとアイディアはやってこない。よって、眠ること、夢中になること、緊張した思考のあとに弛緩の時間を持つことの効用を説明している。そして、アイディアが生まれるのは運しだいでもあり、誤って生まれるものだともいう。つまり、誤りはクリエイティブなプロセスでもあり、謙虚な姿勢で失敗や挫折に接するのがよいとする。
外山は、アイディアをつかみとるための働きかけの方法についても説明している。有名なのは「ブレインストーミング」である。これをやるさいには、場の雰囲気が重要である。聞き上手、ほめ上手な人がいることもアイディアを誘発する。次に、「延長線・慣性の法則」である。例えば、物質を細かくすると原子という最小単位になるところまでわかっているとするならば、その延長線上にはさらに小さな単位があるのではないかというアイディアにつながる。それが素粒子の発見につながるわけである。慣性の法則は、思考の持続を利用するものである。さらに「セレンディピティ」がある。偶然、ひょっこり現れるものである。セレンディピティを高めるには、ものを考えるときに一点に集中せず、適当に風を入れたり道草を食ったりしばらく他のことに忙殺されることが有効だという。
「発酵させる」という方法もある。アイディアづくりは酒造りと一緒で、時間をかけて発酵することが肝要だということである。逆に、短時間でアイティアにしたい場合は「カクテルにする」という方法があるという。これは、既成のアイディアを調合して新しいアイディアにすることである。「たとえる」ことも重要である。明喩、暗喩、換喩(ミトニミー)、提喩(シネキドキ)、諷喩(アレゴリ)など様々あるが、比喩はもっとも豊かなアイディアの源泉だと外山はいう。その他にも、お互いに無関係なものを「結合させる」、アナロジーを用いて「類推する」、既存のアイディアを背景にすえて「ヴァリエーションをつくる」、主客は部分を「入れ換える」など、いくつかの方法を外山は紹介している。