デザインとは何か

柏木(2011)は、デザインは「今日、誰もが等しく望む自由で心地よい環境を生み出すことの実践としてある」と述べる。また、デザインとは意味を目に見えるものにするための記号の実践であるという。


まず、デザインには「心地よさ」の追求という側面があると柏木はいう。ものを改良して使いごこちの良いものにしようといった感覚である。次に、デザインには環境そして道具や装置を手なずけるという側面があるという。自然の事物や既成の人工物は「潜在的有用性」「アフォーダンス」を持つが、それに対して人間側から人工的働きかけをする。デザインはそういう意味での「表象行為」であるといってよい。技術の進化によって装置もデザインも変化する。


また、デザインは「趣味」と「美意識」とも深く関わっていると柏木は指摘する。例えば、日常の暮らしで使う道具や衣服や家具などに装飾を施す。これは、秩序の感覚や規範が一定の様式を生み出すことと関連しているという。また、人間の生活環境を構成している自然が、人間の意識や感覚に深く影響を与えるため、自然現象がデザインにも少なからず関わってきたと指摘する。例えば、自然現象に見られる黄金分割などのプロポーションや、水や空気の抵抗の回避から生まれた流線型デザインである。


さらに、デザインは複雑な社会制度(階級や職業など)と結びついてきており、地域・社会に特有のデザインを生み出してきたという。新しい社会になれば新しい約束事とシステムを持たねばならず、新しい社会を人工的に構築しようという思考が、そのまま新しいデザインを求めたという。


いずれにせよ、19世紀にはじまるモダンデザインは、豊かで健康的な生活様式を提案してきたわけだが、「生活を豊かにするデザイン」とは、メンタルな豊かさすなわち「心地よさ」を提案することであり、時代の技術、時代の素材、経済的計画にくわえ、新たな生活様式の提案や社会的要請、さらには美意識を含めた感覚的な要素、また市場的な条件などを考慮したものから出現してくるといえるだろうと柏木は指摘する。