数学から学ぶ論理思考(ロジカル・シンキング)

算数や数学の問題を解くときは、まず試行錯誤によって論理構造を組み立て、組み立てたものが論理のルールにそっているかチェックし、間違いがなければ答案に解答を書いていく。学問の世界や日常で論理的に考える場合にも類似したプロセスが用いられる。論理思考(ロジカル・シンキング)で大切なのは、自分や他者が組み立てた論理構造が正しいかどうかをチェックする能力、スキルである。


論理構造は、いくつかの「根拠」から「結論」を導くプロセスであるが、論理構造をチェックするさいに2つのポイントがあると小田(2011)は指摘する。1つ目は「つながりの正しさ」であり、2つ目は「論理構造を構成している要素が適切かどうか」である。つながりの正しさについては、論理構造が間違っているときは、根拠と結論が食い違っている場合と、結論に対して論理に過不足がある場合がある。後者については、例えば根拠が不足している場合は、間違った結論を導いてしまう危険性がある。これをチェックするためには、他の根拠と矛盾しない仮定を追加してみたときに、違う結論を導くことができるかを調べることである。もし、違う結論を導くことができるのであれば、根拠が不足していることを示していることになる。


構成要素の適切さについては、結論を導き出すために用いる根拠そのものが適切かどうかを調べる必要がある。実は、この根拠自体も、なんらかの別の根拠から論理的に導き出された結論であることがほとんどである。そう考えると、さらにその論理構造をチェックしなければならない。そうなると、どこまで論理を遡ればよいのか、すなわち論理構造のスタート地点はどこかという問題がでてくる。これに対して、数学では「公理・公準」と「定義」を出発点としている。これは「仮定」であるが、そこから論理的にさまざまな結論を導こうとするのが数学なのである。しかし、すべての論理を出発点からスタートしていてはあまりに時間がかかりすぎる。そこで、一度間違いなく論理的に導くことができた結論については、それを「定理」というかたちでパッケージ化してしまう。定理ができあがれば、それ以前の論理構造はチェックしなくても、そこからスタートすればよいということになる。この「定理」を作るのも数学者の仕事なのである。いわば人類の論理的知識財産の生産と整理・体系化である。


仮定のうえに論理を組み立てていく数学的方法は、抽象化という力を得ることによって、物事の本質を理解し説明するための強力なツールとなるのである。これが論理的思考(ロジカル・シンキング)の本質である。