田中(2009)は、好きなことを仕事にするためのさまざまな方法を論じているが、その中で本人が実践したものに「能力の横展開」というのがある。つまり、自分の持っている能力(知識やスキル)とビジネスの場での経験を、そのまま好きな分野に横展開すると(それが即戦力として求められるものであれば)すぐにでも好きなことを仕事にできる可能性は高くなると説く。
田中自身は、雑誌の創刊編集長から映画のプロデューサーへと、まったくの異業種、まったくの異職種に転職したのだが、仕事を始めてみて思わぬ発見があったという。それは「映画のプロデューサー(ただし統括プロデューサー)に求められる職務要件は、雑誌を創刊するときの創刊編集長の職務要件とまったく同じではないか!」ということだった。
つまり、映画の統括プロデューサーの主たる仕事である、予算管理、スケジュール管理、品質管理(テーマ設定も含めて)、スタッフィング(誰をスタッフに起用するか)、キャスティング、観客ターゲットの設定、プロモーション、タイアップ営業、流通(販路)の確保などは、雑誌の創刊時に編集長が担わなければならない役割とまったくといっていいほど同じだったというのである。田中は、創刊編集長をすることによってすでに身に着けていた「プロデューサー型コンピテンシー」をうまく映画の統括プロデューサーという職種に横展開することによって成功できたのだといえよう。
田中は、自分が持っているキャリア(職務経歴)を棚卸してみると、それが他の分野でどのように転用できるか、それらに何を加えれば、自分の進みたい分野で求められる人材になれるかが見えてくるはずだという。つまり、職種や業種が変わっても、持ち運びが可能な(ポータブルな)能力を認識さえすれば、それを意識的に磨いていけばいいということなのである。そのために「自分のキャリアをいつも最新のものにアップデートして、文字に落とし込んでおく」ことを田中は勧める。転職をするしないに関係なく、定期的なキャリアの棚卸という観点から、プロフィール、詳細な職務経歴書をいつも書いていくことが大事なのだと指摘する。