論語の本質

佐久(2006)は、論語の中でも孔子の残したメッセージを、以下の10章にわけて解説している。

  1. 人生の目標(善く生きる、どう生きるべきか)
  2. 家族(親と子、親孝行)
  3. 教育と学問(学ぶということ、知るということ、学習と思索など)
  4. 道徳の力(徳、仁、礼儀など)
  5. 能力と努力(賢慮と優劣、才能、努力と精進など)
  6. 社会参加(人に仕えるということ、立身出世、指導者の資格など)
  7. 心と言葉と行動(心の安泰、プラス思考、言葉と行動、惑いと過ちなど)
  8. 人間の品位(貧富と貴賎、利益と欲、正直、素朴、傲慢と頑迷、憎しみと怨みなど)
  9. 国民と政治(政治の基本、政治家の資質など)
  10. 老病死と祈り(老い、病、心霊と祈り)


佐久によれば、孔子にとって人生の価値は「結果」にあるのではなく「過程」にある。だから「いかに善く生きるか」を説いた。また、人倫の基本は家族生活にあると考え、「善き家庭人」であることが「善き社会人」であることを説いた。ただし、孔子自身の元来の望みは、政治家にあった。政治家としての挫折の後、自分と同じ政治的志を持つ者を育てようとしたことが、教育家としての孔子を生み出し、孔子の教育論につながったのである。孔子の考え、論語は、孔子が目指す政治的目標(理想的な社会を実現する)と直結した教えであると考えられる。


道徳についても、孔子は道徳的社会を作り出すという政治的目標を持っていたこともあり、道徳は目的と同時に政治的手段でもあったといえる。孔子が考える道徳的社会では、個人の能力の差を認め、有能なものが未熟な者を導き助け、未熟な者は有能な者を手本に努力するという、相互強調による社会全体の道徳的向上と社会融和の実現を目標としていた。政治的家としての孔子にとって、学問も修養も世の中を変えるためであり、社会参加や立身出世も大いに奨励したのである。


孔子は、心、言葉、行動は三位一体であり、心を磨き鍛えることが、言葉と行動につながると考えた。さらに、能力よりも品位を重視し、とりわけ指導者としての品格を重視した。国家の政治についても、結果よりも過程を重視した。孔子は、物質的反映よりも精神的向上にこだわったが、同時に徹底した現実主義者でもあったという。