デフォルメする技術、捨てる技術

藤原・岡部(2007)は、数学でも重要な「抽象化」の重要性を説く中で、抽象化とは「捨てる技術」だと説明する。例えば、複雑な問題について思考しようとするさいに、なるべく単純に物事の本質を眺められるように、細かい部分を捨て去って抽象化した図を描くことが効果的なのにも表れている。


誰かの顔から、特徴的な部分を極端に強調して描きだした「似顔絵」は、本人よりも本人らしいキャラクターを出していたりする。これは、特徴を強調する一方で、その他の部位については鑑賞者が無視できるように「思い切って弱く描いたり、捨て去る」わけで、これが「デフォルメの技術」であり、「捨てる技術」なのだと指摘する。


「航空写真」をデフォルメしたのが「地図」であり、「実際の線路」ををデフォルメしたのが「路線図」である。これらの例は、情報量が多すぎるとかえってわからないので、本質的な部分以外を思い切って捨ててしまう「デフォルメする」ことによって、逆によく理解できるようになるということを示している。


また、会社の社訓は究極の抽象化(デフォルメ)だとも言う。例えば「リクルート」という会社では「どうして人が育つのか」「どうして活性化しているのか」については、藤原の著書「リクルートという奇跡」のように詳細にその秘密を記録することもできるが、その本質は、社訓となっていた「自ら機会を作り出し、機会によって自らを変えよ」の一言で見事に表現されているという。これこそ、究極の抽象化である。