藤原(2009)は、時代の潮流が大きくシフトしており、日本では「成長社会」から「成熟社会」へと移行したと指摘する。成長社会においては、「みんな一緒」でよく、そこでは「経済成長」が人々の精神的支柱となっていた。経済的な成長を支柱とする誰かが作った物語に乗っかっていけば幸せになれた。会社や国にライフプランを任せておいても大丈夫だったから、個人の人生戦略もいらなかった。
しかし、成熟社会においては、すべてのものが多様化して社会システムが複雑になっていき、変化が激しくなる。人々の価値観も多様化し、複雑化し、変化のスピードが早くなりつつあり、「オリジナリティの高い人生を歩もう」という考える人にとっては、生きやすい時代となったと指摘する。「みんな一緒」である必要はないため、みんなに合わせる必要もないわけである。それゆえ「自分の人生を生き抜くための戦略」が必要とされる時代になった。自分の人生で実現させようとするものは自分で見つけだすしかない。どうやってそれを実現しようとするのかも自分で考えるしかない。オリジナリティが重要な時代だからこそ、普通に考えれば実現が難しそうなテーマについて、戦略的に考えて行動し、実現に近づいていく。
藤原によると、新たな時代の人生戦略に必要なのは「正解を導き出す力」ではなく(正解がない時代だから)、「納得解を導き出す力(自分が納得でき、かつ関わる相手を納得させられる解」である。これは情報編集力でもある。さらに、複眼思考などを援用してさまざまなものを「つなげる力」、および批判思考(クリティカル・シンキング)が重要となる。これらの力によって、ジグソーパズルを解くような「正解主義」ではなく、想像(創造)し、試行錯誤しながらレゴブロックを組み立てていくような「修正主義」で生きることが望ましいと言う。そのさい、物語や人との関係性がレバレッジ(テコ)となる。ひとりひとりの時代だからこそ、人とつながっていくことをテコにして、うまく仲間とのベクトルを合わせながら、自分自身の人生を勝ち取ることが重要なのだと示唆する。