齋藤流「コメント力」「質問力」

齋藤孝は、ひと言、ふた言で気の利いたコメントを言うことができる「コメント力」を提唱している。齋藤が主張する現代社会を生き抜く力(まねる力、段取る力、コメントする力)の1つである。齋藤(2004)は「コメント力は人間的な魅力の大部分を占めると言ってよい」と断言する。


齋藤(2004)によれば、レベルの高いコメントとは「整理された切れ味のいい発言」である。ひと言で「なるほど」と思わせるような、見方が鋭い、本質をついた言葉である。流れていってしまう時間のなかで、タイミングよく、印象に残る言葉を残すという意味では、優れたコメントは、流れに杭をうつようなものでもある。また、言語化しにくい状況も引き受けてくれるので、コメントは、非言語的なことに対する目さえも聞く効用がある。


齋藤(2003)は、コメント力と関連の深い「質問力」についても解説している。質問するという積極的な行為によってコミュニケーションを自ら深めていくスキルであり、優れた人から情報を引き出すスキルでもある。聞き方がうまければ、面白い人の面白い話を聞きだせるのである。滔々としゃべっている人よりも、質問を出した人で場は支配されていることが多い。優れた質問をする力は、離れたところから自分を見たり(世阿弥の離見の見)状況や文脈を常に把握したりする力とも関連している。相手の状況、興味、関心を推しはかり、自分の興味や関心とすりあわせて質問するようなことが求められる。


齋藤によれば、質問力は、文脈を外さず、キッチリと織物を織っていくように対話ができる能力でもある。コミュニケーションでは、誰もが自分の経験世界を話したい。だから自分の話をしながら相手の経験世界を汲み取り、うまく引き取って、自分の面白い話につなげていくことが求められる。お互いに経験世界を混ぜ合わせることによって、楽しい場を作っていける。相手の苦労や積み重ねたものを掘り起こすような質問ができるとよい。「具体的かつ本質的な問い」によって、相手の想像力を喚起したり、頭の中を整理する機会を作ってくれるような質問もよい。具体的な事項を問いながら、本質的な事項に迫っていく。また、現在の文脈にも沿い、過去の経験世界にも沿うような、現在と過去が絡み合う質問もよい。その人の根底にある経験を引きずり出すために、具体的な話と抽象的な話をつなぐのも高度なテクニックである。


齋藤は、コミュニケーションの秘訣は「沿いつつずらす」ことに尽きるという。寄り添う身体、うなずき、あいづち、言い換え、引っ張り(相手が前に言ったことを持ち出す)を活用して、相手に沿い、相手とのつながりを意識し、共感を深めつつ、自分の経験にひきつけて絡ませる。個人の経験世界に相手のキーワードをひきつけて話したりする。そうして少しずつずらしていく。本質的な話と具体的な話を往復しながら、ずらすことによって話が発展していくのである。