世界史を動かす5つのパワー

齋藤(2008)は、どのような思いが人を動かし、世界を動かしてきたのかという、人間の感情や欲求に関わる5つのパワーを軸に、ざっくりと世界史を解説している。5つのパワーとは「西洋近代化のパワー」「帝国の野望というパワー」「欲望のパワー」「資本主義・社会主義ファシズムというモンスターのパワー」「宗教のパワー」である。


西洋近代化のパワーは、古代ギリシア・ローマを源流とする「加速せずにはいられない」ヨーロッパの柱のことであると齋藤は指摘する。近代化は、ヨーロッパから世界中に拡大し、現在も「もっと、もっと」というさまざまな形で止めどない圧力をかけている。それは、合理性の飽くなき追求であり、資本主義による経済の膨張である。


帝国の野望というパワーの根源は「俺様に跪け」という他人支配への欲望だと齋藤は指摘する。これは古代ペルシアもしかり、中国への朝貢貿易もしかりで、これらは「俺様に跪け」の典型だという。この欲望には際限がないため、ほとんどの帝国は、領土を広げること自体が目的化していき、結局はそれが原因で崩壊していくという。「帝国」を定義する際の最も大きな特徴は、拡大により複数の民族を支配することであり、世界史は、帝国による異民族支配で失われた民族の誇りと存在証明(アイデンティティ)を回復させるための戦いによって動かされているのだと指摘する。


欲望のパワーは「モノ」と「あこがれ」が歴史を動かすことを示すものである。今も昔も人々はモノにあこがれを抱き、流行に左右されることで、生活や世の中まで変えてきたのだというわけである。例えば、コーヒーやお茶の世界への広まりが、文化、貿易、植民地支配、社会格差などを生み出してきた。金やブランドなど、モノへの欲求やあこがれが、そのモノを算出する土地を所有したいという欲求につながり、それが領土を拡大したいという帝国の野望などと複雑に絡み合い「植民地化」という現実を作りだしたと齋藤は指摘する。


モンスターのパワーについては、まず、人間の本性でもある欲望が止まらないから「資本が自己増殖を行う」資本主義はどとまるところを知らないようで、世界中の国々を飲み込んでもなお止まらないのだいう。その結果生み出される格差や不平等を是正しようと人工的に作り出した社会主義という壮大な実験があったのだが、それは暴力による独裁と結びつき、官僚制が腐敗し、ソビエト連邦の崩壊のように、内側から自壊したと解説する。そして、植民地などを「持てるもの」と、それらを「持たざるもの」の戦いの一環として「ファシズム」が生まれたと説明する。


宗教のパワーについては、西洋近代が生んだ帝国主義キリスト教が一緒になって南米などの征服が推進されたことを説明し、一神教のパワーは、同じ神をもつユダヤ・キリスト・イスラムの宗教三兄弟による飽くなき紛争を生み出し、それが世界の歴史、とりわけ争いの歴史の多くを形成していることを指摘する。