従業員に感動を与える人事部


仮に、人事部の直接の顧客は、その会社の従業員だとしよう(そして、その先に、企業の顧客があるので、間接的には企業の顧客に向いた人事部ということにしておこう)。


そうすると、人事部は、顧客である従業員が、企業の顧客を満足させるために、自分の持つポテンシャルを最大限に発揮し、働きやすい環境を提供することが第一の仕事ということになろう。平たくいえば、顧客としての従業員が満足する環境を提供するということだ。


しかし、それならば、人事部の仕事は、従業員のニーズを満たすことなのかと短絡的に考えてはいけない。そのような姿勢でほんとうに従業員からの信頼と支持を得られるであろうか。これは、マーケティングでもよく指摘される落し穴なのである。つまり、企業が顧客のニーズを満たすために、マーケティングリサーチで顧客からニーズを聞くことを行い、そこからほんとうに優れた(ヒットする)商品が生み出されますかという問いに等しい。


本当にヒットする商品やサービス。お客様を感動させ、お客様をその企業のファンにしてしまうような商品やサービス。これらはどうやって生まれるのか。もちろん、こうすればよいという公式はない。言えることは、顧客ニーズを聞けば生まれるようなものではないだろうということである。さらにいうならば、ヒットする商品は、顧客が思いもしなかったものを与えることによってヒットするのではないだろうか。常に、顧客が期待する以上のことをする。期待以上の思いがけない商品・サービスだからこそ、顧客は感動するのである。本当に人を喜ばせたいときに、よくサプライズを仕掛けるということを考えるとわかると思う。


顧客にニーズを聞いたとしても出てこない。それはあたりまえである。すでにあるニーズを提供するだけのものは、並みの商品・サービスだ。聞かれてもわからないが、実際にそんな商品が現れると「これは凄い!」と感動し、ぜひ手に入れたい!と思うようになる。驚きという要素が含まれている。


さて、これを、人事部の仕事に当てはめてみよう。従業員のニーズ調査や満足度調査をやったからといって、従業員がほんとうに喜ぶサービスを人事部が提供できるわけではないということがわかるであろう。むしろ、従業員が思いもしなかったような素晴らしいサービス、常に従業員の期待を上回るおもてなし。人事部にこれができるかどうか。できれば、従業員に真に愛される人事部になるだろう。そうでなければ、単なる企業の一部門としての人事部で終わるだろう。従業員が企業の人材マネジメントのやり方に感動し、生き生きと元気に働くようになり、それが自然とお客様に伝わり、お客様にも喜んでもらえる。そんな好循環が実現すればすばらしいことだろう。