人事戦略の変化と労使関係の今後


転形期における雇用・労働の実態に関する調査研究報告
http://www.rengo-soken.or.jp/dio/no180/k_hokoku..htm

企業が重視するステークホルダーにおいて、最近は株主・投資家を重視する傾向が強まっている。このため、全社レベルでは市場評価に関する経営目標を、また部門レベルではより徹底した業績管理を志向する企業が多くなっている。市場構造の変化により売上の増大が必ずしも利益に結びつかない現状では利益指向型へと再編し、更に今後は資本効率指向型に転換されることが予想される。


人事戦略の方向も大きく変わりつつあり、それは市場リスク対応型への再編といえる。長期雇用型正社員をスリム化し非正社員を拡大する方向で雇用ポートフォリオを再編したうえで、人事管理と経営戦略との連携を強化する。すなわち総額人件費の面では経営成果との関連を強め、個別人事管理の面では評価・処遇の成果主義化と人材育成の投資化を強めることによって、伝統的な人事管理から脱却をはかろうとしている。


こうした業績管理、組織、人事管理の変化のなかで、労働者の仕事と働き方は一方で仕事量が増大し、他方で範囲、質、責任度、必要能力のいずれからみても仕事内容が高度化する方向で変化している。また、その働きぶりの評価と処遇は、仕事と成果に基づいて決定されつつある。


企業は財務重視型の業績管理と、それを背景にした成果主義的な人事管理を整備するとの方針を強めている。他方、労働組合は長い時間をかけて実現できる人材と組織力の強化を促進する業績管理を求めており、それがあってこそ長期安定雇用などの伝統的な人事管理が維持されると考えているのだろう。本来、企業経営にとってみると、短期的に経営成果を上げることも、それを長期安定的に実現してくれる人材・組織力を強化することも必要なことであり、両者の適切な組み合わせを実現することが求められているのである。いま起きていることは、企業がこの組み合わせを成果重視型に移行させたいとしていることなのである。そうであれば、これまで売上や利益などの財務指標で経営成果の大きさを評価してきた労働組合も視点を変え、財務指標とともに人材や組織力を視野に入れた、労働組合版の経営業績(経営成果)評価システムを作り上げ、それでもって経営をチェックするということが必要になろう。


グローバル化、国際競争の激化、デフレ経済から来るリストラ圧力等によって、企業組織再編は、今後もさらに加速するものと思われる。これらに備えた労働組合の対応について以下の3点が必要となる。第一には労働組合の組織範囲拡大と企業グループ労連機能の強化である。第二は労働協約の整備である。第三は企業組織変更に関する事前協議のルール化である。