日本型人事管理の「繰延成果主義」

成果主義とは、言ってみれば個人の処遇を本人の成果に応じて行うということである。会社は従業員の貢献によって利益をあげているわけであるから、成果すなわち貢献度に応じて利益を配分するというかたちであれば整合性もある。

ところが、素朴な成果主義の問題点は、成果の測定にある。仮に、成果=個人の職務遂行における貢献度とすると、同僚を助けたりした場合にはそれが評価されない。しかし、助け合いやチームワークも企業の発展に必要不可欠なのは明らかである。また、測定には誤差がつきものであるが、上司によって評価が異なってしまったりすると、評価の信頼性や妥当性が著しく損なわれる。そのような低信頼性・低妥当性のもとで測定された成果に応じて処遇しても、公正な処遇にならない。


しかしながら、いわゆる伝統的な日本型の人事管理の良い点は、成果主義の理念に則りながらも、その方法が「繰延成果主義」である点だ。つまり、成果=貢献に応じて処遇することは実行するが、その実行を後年に繰延するということである。例えば、今年度の本人の貢献をすぐに測定し、即次年度の処遇に反映させるのではなく、測定も処遇への反映もいったん繰延する。そうすると、とりわけ若手の場合には一見すると同期間で差がつかない年功序列の処遇制度のように見える。しかしそれはあくまで遅延させているからそう見えるのであって、入社後5~6年や10年後などに、じわじわと貢献度を処遇に反映させていくのである。


つまり、成果主義を遅延させているので、若いときには同期とは差がつかないが、何十年企業で働き、定年をむかえるころまでには、ちゃんとその会社への貢献度とその会社から得られた処遇がバランスするように設計されているのである。


なぜ、繰延成果主義が機能するかというと、それは先にあげた成果の測定問題をクリアしているからである。何年も同じ会社で働き、その間に上司も何度か交代するならば、社内において誰がどれくらい貢献しているのかがわかってくるからである。つまり、成果の測定を繰延べつつ、時には人事考課のような記録で、時には社員間の暗黙知として社内に蓄積することによって、個人の評価にかんする誤差が縮小し、より正確な評価が可能になってくるということである。もちろん、万能ではなく、社内政治などが働くことによって評価が機能しない場合もあり、そういった会社は経営力が弱まり衰退する運命にあったのであろう。