すでにあるリソースを最大限に活用して優れた成果を出す

ソネンシェイン(2014)は、私たちが持つリソースに制約があっても、「すでにあるもの」だけでもっと成果をあげ、もっと強い組織を築き、もっと仕事を楽しみ、もっと大きな幸福を手にできる考え方があるといい、それを「ストレッチ」という言葉で説明している。これは「成果をあげるためにはリソースが必要」「豊富なリソース=優れた成果」という考え方が適切ではないことを示唆している。むしろ、手持ちのリソースを最大限に活用すること、困難な状況下でも臨機応変に解決策を見出す能力(リソースフルネス)こそが重要であることを示唆するものである。ストレッチとは、単に制約を克服するための創意工夫ではなく、変化に強い働き方、生き方につながり、つねに成功を収め、よりよい人生を過ごすための「人生観」にもつながるのだとソネンシェインはいう。


ソネンシェインによれば、リソースを追い求める(これをチェイシングという)のではなく、リソースが少なく制約があるほうが成功する理由がある。その理由の1つは、限られたリソースを自我の一部として体験する(これを心理的オーナーシップという)ことを通じて、自分の持っているリソースに対する見方をがらりと変え、リソースを意外な方法で転用することにある。人はリソースが豊富だと、それを見たままに受け止め、従来のままのやり方で利用してしまうが、リソースが乏しいときは、その制約を受け入れたうえで、限られた資源を最大限しようという態度が生まれる。従来の方法にとらわれないでもっと自由に発想し、創意工夫するようになるのである。また、やたらとリソースを追い求め、結果的にリソースを無駄遣いしてしまうのに比べ、リソースを追い求めず質素倹約を心がけることで、手持ちのリソースを再利用しようとする発想が生まれる。これも、既存のリソースを他の分野に活用したり、異なる使い方で再利用するなどの「有効活用」につながるわけである。


限られたリソースを最大限に活用するストレッチの能力を高める方法として、ソネンシェインは、マルチコンテクスト(マルチC)の重要性を強調する。マルチCとは、さまざまなコンテクストに対象を当てはめることで、多様な経験を積むことによって磨かれる。別の言い方をすれば、ある分野の専門家ではなく、アウトサイダーの視点を持つことである。そうすることで、特定のリソースを思いもかけない使い方で活用するアイデアが生み出される。ある特定の状況に対して用いられる特定のリソースを、まったく違う状況のまったく違う問題を解決するために利用することを可能にするということである。さらに、しっかりと計画を立てるまえに行動し、行動の結果から何かを学び、行動を修正するなどを繰り返す中で、リソースの活用が進むことも考えられる。ソネンシェインは、この他にも、ポジティブな期待を維持することでリソースを活用する方法や、本来は水と油のように交わらない異なるリソースであっても、リソースに対する考え方や接し方そのものを変えることでリソースを組み合わせ、融合させ、新たな価値を生み出す方法なども紹介している。


このように、限られたものであってもすでにあるリソースを最大限に活用して成功するためのトレーニングとして、ソネンシェインはいくつかの方法を提唱している。例えば、「リソースを増やそうとせず、きっぱりと要らないという」「いまあるリソースで活用できるポテンシャルがあるのに眠っているものがないか探す」「新しい経験を得るための探検をする」「集中しすぎない」「新しい隣人を探す」「いまあるリソースに毎日感謝する」「自分がどんなリソースを持っているのか再確認する」「計画なしに行動してから事後的に計画をつくる」などがある。