代表作を生み出した後のキャリアデザイン

結果で勝負するクリエイター、作家、研究者、プロフェショナルにとって、自分の代表作ともいえる最高の成果を生み出すことは大きな目標である。しかし、最高傑作を生み出すことによって燃え尽きる(バーンアウトする)ことも大いに考えられる。では、そういった大作を生み出した後のキャリアはどうなるのだろう。


三田(2011)は、小説の場合、1つの作品を書き終えた作者には、新たな地獄が待ち受けているという。文芸ジャーナリズム、あるいは文壇と呼ばれる場所に置かれた作家には、安住の地といえるものはないというのである。1つの作品が終われば、作家は次の作品を書かなければならない。1つの達成が終わっても、さらに大きな達成を作者は求められる。


大作を描き終えた作家は孤立し、未知の領域に向かってさまよい続けるしかないのだと三田はいう。同時代に比べるものもないほどの大作を書き終えてしまった作家にとっては、その大作がライバルとなる。自分の過去の作品を超えなければ、作家としての進歩がないわけだし、読者や批評家や編集者の期待もそこにある。しかし作家としての集中力や想像力は、潮流にも山脈にも似ている。大作を仕上げた後には、しばらくは下り坂があると考えなければならない。自分が下りつつある背後の山が、高ければ高いほど、より大きな山に登らねばならないということが、作家の負担となることもあるという。


作家は生涯に最高傑作を1つ書けばよいと考え、すでに自分はその最高傑作を書いてしまったと考えれば、安心してあとは余生だと割り切るという生き方もあると三田は指摘する。功なり名を遂げた作家としての役割である。つまり、作家としての役割を担うことと、作家であり続けることとは、別の道筋だと考えるべきだというのである。役割としての作家は人との関係の中で生きていけばいいが、書き続ける作家はつねに孤独でなければならない。