日本語の文章力は外国語を学ぶようにして身につける

野内(2010)は、「実用文」としての文章の書き方を学ぶには、「外国語を初めて学んだときの姿勢で日本語を見直す」ことが大切だと説く。なぜなら、書き言葉は話し言葉とは大きく異なり、むしろ「外国語」に等しいからである。とりわけ、こちらが考えていることが相手に正確に届く文章(達意の文章)を書くには、「定型表現」を中心として、「型」(パターン)を身に着けることが肝要だという。まさに、「型にはまった」文章でよいのである。


例えば、受験などで英語・英作文を勉強するときは、語彙を増やすために単語や熟語、慣用句を覚え、そして定型表現を頭に叩き込んだことであろう。それゆえ、日本人は英語を話すことはできないが読み書きはできるという揶揄も聞こえてくるのである。けれども、そういった勉強の仕方が日本語で達意のある実用文を書く場合にもあてはまるというわけである。


野内はこういった考え方に基づく文章術を「パッチワーク型文章術」と呼ぶ。とりわけ実用文を書くことは「引用」である。独創性など必要なく、使い古された言い回しを借りてきて、それをうまく組み合わせて(パッチワークして)、文章を書いていくわけである。マニュアルにしたがって、一定の言い回し、決まり文句をつなぎあわせることで、誰でもそこそこの文章が書けるというのである。まさに、文章を書くことは、説明書にしたがって模型を組み立てる(模倣行為)ようなものである。


そのため野内は、文章を書くコツとして「短く書け」「わかりやすく書け」といった基本に加え、外国語の勉強のように「定型表現を暗記せよ」というのである。定型表現には、「長蛇の列を作っている」「匂い立つような色気がある」「青筋を立てて怒る」など実にたくさんある。「可愛さ余って憎さ百倍とはこのことで」「血は争えぬというが」「使い古された喩えだが」のような表現をうまく活用することである。


野内(2010)では、こういった理念に従い、ヨーロッパ語と比べた場合の日本語の特徴にも言及しながら、さざまざまな文章術の基本を紹介している。語順の問題、読点の打ち方、修飾語、「ハ」と「ガ」の使い分け、段落の流れなどが解説されている。最後には「使える定型表現」一覧も載っている。