「ボケ」と「ツッコミ」の思考技術

酒井(2010)は「ロジカル・シンキング」と「ラテラル・シンキング」を融合した「インテグレーティブ・シンキング」という思考法を提唱している。酒井によれば、ラテラル・シンキングとは、斬新で飛躍のあるアイデアを生む「水平的な」思考法であり、これは漫才でいれば「ボケ」に該当する。それに対し、ロジカル・シンキングとは、ある事実の束から疑えない結論を導き出す「垂直的な」思考法で、漫才でいえば「ツッコミ」に該当する。また、ツッコミは、論理面から批判的に検討する批判的思考(クリティカル・シンキング)でもある。


「ボケ」の基本は「ずらし」であり、水平思考である。そうだからこそ創造的である。普通に考えたらあまり思いつかないような意外なことを言う。常識を覆すような発想をする。論理的な垂直思考では到達しないようなところ、つまり飛躍したところに視点を持っていく。そこに創造性のタネがある。また、そういった発想は「ひらめき」によって得られることが多く、直観的である。異なる分野の既存の知識やアイデアが偶発的に結びつくことによって生じる。酒井によれば、ある食べ物に毒がある場合、「毒があるから食べない(ロジカル・シンキング)」ではなく、「毒があってもなんとかしたい(飛躍を求める意図)」があるからこそ、ラテラル・シンキングすなわち「ボケ」の発想が出てくる。しかし、そこには飛躍があるように見えるから、「ツッコミ」によってその内容を垂直的に掘り下げ、その論理性を問いただすわけである。


創造的に考えるためには、論理的かどうかはともあれ、新しいアイデアを生み出すことが大切であり、ラテラル・シンキングが活躍する。それによって生み出されたアイデアが「たたき台」となる。そして、その新しいアイデアが本当に正しいかどうかを、論理的に検討する、すなわち「たたく」ことが求められる。最初のアイデアは、論理的に穴や漏れが多く、だからこそ、現実には使えないものかもしれない。けれども、「たたく」ことによってそのアイデアの論理的な不備を見つけ、その不備を改善しながら、アイデアを実現可能なかたちになるよう鍛えていく。ボケとツッコミの共同作業によって、実現可能性の高い斬新なアイデアが生み出されるというように、優れた思考が可能になると考えられる。