アブダクションによる創造的活動

一橋大学編(2001)では、創造的技術者の議論を中心に、人々が創造の発端でどのような論理を用いているのか考察している。例えば、創造の発端では、その時代の、その社会、その組織の人たちには「馬鹿げた」「論理的に理解しがたい」話として提案者の思いの中にあるものである。この暗黙知を論理的に理解しようとするときに用いられるのが、演繹、帰納と、「アブダクション」がある。


アブダクション(仮想法、仮説形成法、仮説的推論、発見法)とは、不可解な事実が観察された場合、これをその結論として説明しうるような仮説を構想し想起する推理である。このアブダクションによる仮説形成が、思いを実現する発見や発明の重要な発端になるという。創造的思考とは、事実を機械的に集めて理論を帰納するのではなく、他の分野からの直観や偏見、洞察などが関わりあう複雑な過程だといえる。アブダクティブなプロセスは、神秘的でもあり、天啓だという言い方もされる。この推論は、個々バラバラな結果を自らの世界観に基づいて体系立てようとする推論であり、研究者や技術者のさらなる関心や試行錯誤を導くプロセスであるとされる。


アブダクションは「結果」から出発し、「仮説」から「事例」へと進む。多くの発見や発明の発端には個人のアブダクションによる推論があった。ひらめいたり、ホラを吹いたり、飛躍の大きな仮説形成を得意とする者も、アブダクションの推論プロセスを用いているという。