最近、ビジネスの場面でもよく聞く思考のスキルとして、「ロジカルシンキング」「論理的思考」というものがある。この基礎となるのが形式論理学だが、小室(2001)は、形式論理学が確立した根本原則は次の3つだという。
同一律とは「AはAである」という法則である。議論している間に、ある概念の定義がだんだんと変わってしまうことがあるが、これはAがAでなくなってしまうことであるから、明らかに同一律が守られていない非論理的な展開である。
矛盾律とは、[AはBである][AはBではない]という2つの命題が、両方とも真であることはない。また、両方とも偽であることもない、という法則である。背理法では、ある前提を仮定して、このような矛盾が生じたら、その仮定が間違っているという性質を利用する論証である。
排中律とは、さきの2つの命題のうち、必ず一方だけが成立し、他方は成立しないが、それ以外の中間というものはない、という法則である。AはBと非Bの中間である、AはBでもあり同時に非Bでもある、AはBと非B以外である、という命題がすべて成立しないという法則である。
小室は、この3つをマスターするだけで、形式論理学の蘊奥(奥義)を極めたことになるという。
また小室、証明の技術として、背理法(帰謬法)、帰納法、必要条件・十分条件、対偶の論理を紹介している。
矛盾律が生んだ背理法は強力な証明技術だという。非ユークリッド幾何学の発見も背理法に端を帰する。非ユークリッド幾何学の発見によって、数学は真理の追究から、模型(モデル)構築へとコペルニクス的転回を迎えたのだという。つまり、公理は自明な真理ではなく、仮説に過ぎないということになったのである。
帰納法に関しては、現代科学は不完全な帰納法により発展したとし、一方、すべての整数について成り立つ命題を証明する「数学的帰納法」は、数学のみが持つ完全な帰納法だとする。
必要条件、十分条件、必要十分条件(同値)は社会科学では最重要概念だという。同値とは、論理的にまったく同じことであるという意味である。
ある命題(正)と対偶は同値関係にあり、同様にその命題の裏と逆も同値関係にある。正が真であれば対偶も真、正が偽であれば対偶も偽である。だから、ある命題の証明が難しいときは、対偶の証明を試みて、それが真であると証明されれば、その命題が証明される。