イノベーション思考のメカニズム

井上(2011)は、イノベーション思考の発想メカニズムの特徴を落雷になぞらえて説明する。落雷は三段階あり、最初は雷雲から伸びる光の弱い先駆放電、次が大地側から迎えるように伸びる線条・先行放電、そして、両者が結合して大量の電荷が本楽的に先行放電路に流入する主雷撃がある。イノベーション思考に対応させるならば、最初、理想の姿を考え、そこに至るには何が必要かをあれこれ考える(先駆放電)、次に、現状から考え、そこから理想に向かうにはどのような道筋があるか考える(線条・先行放電)、最後に、理想の姿から考えた道筋と現状から考えた道筋をつなぎあわせるために、どのようなギャップをいかに埋めるかを考える(主雷撃)。


井上によれば、イノベーションの先駆放電に必要なのは、理想の姿を考える発想の豊かさと、そこに至る道筋を複数考える論理力である。線条・先行放電に必要なのは、日頃から研鑽を積んでイノベーションに関する「引き出し」を増やしておくこと、主雷撃に必要なのは、先駆放電と線条・先行放電を結合(マッチング)させるパターン認識である。このパターン認識が、イノベーション思考におけるスパークの源だという。


イノベーションにおける「スパーク」や「ひらめき」については、井上はワラスの「創造プロセスの四段階説」を紹介している。これは、創造プロセスは、(1)問題解決のための情報をできるだけかき集めて必死に考える(準備期)、(2)すべての努力をいったんストップする(孵化期)、(3)解決法がいきなり頭に浮かんでくる(啓示期)、(4)ひらめいた解決法を論理的に筋道立てる(検証期)を踏むというものである。インスピレーションを得るのに重要なのは、全力で取り組んだ努力をきれいさっぱり忘れる孵化期だという。


また、啓示(ひらめき)を得るためには、「(幸運を)待ち受ける心」が必要だという。これは、落雷の例でいえば、先駆放電、線条・先行放電を行うために必要な準備であり、すなわち好奇心と日頃の鍛錬であると井上は言う。自分の周囲に対して何事にも好奇の目を向け、なぜそうなるのだろうと考える。また、何か変わったことが起きたときにその情報を考えるだけの基礎知識といろいろな事例を「引き出し」として知っておく。これらは後天的な要素が大きく、多くの偉人のように努力によってイノベーションが成就することを示唆しているという。