ひらめきを生む脳活用法

茂木ほか(2009)は、NHK「プロフェショナル」の番組に基づいた著書のなかで、ひらめきの極意すなわちプロに学ぶアイデア発想法について解説している。


それによると、そもそも何もないところからアイデアが自然発生することはなく、あくまで外から入ってきた種々雑多な情報が、脳というフラスコの中に蓄積され、さらに攪拌、分散、増殖、結合といった化学変化が繰り返されることで、初めてアイデアという部生物が育つ土壌が出来上がると考えられる。蓄積された情報が組み合わされて、それまでにない形ができあがるのが、ひらめきの本質である。脳内では、経験や知識が蓄積される側頭葉と、脳の司令塔である前頭葉とのアイデア会議が行われる。


ひらめきを得るためには、第一に、徹底的に考え、考え抜くという作業が必須である。


次に、アイデアを生み出す場所が大切である。移動中や寝る前やお風呂の中などいろいろあるが、アイデアを生み出すのに好都合な場所というのは、感覚が適度に遮断される場所。うまい具合に感覚が遮断されれば、脳がひらめきのための作業に集中しやすくなり、脳内のアイデア会議が活性化する。逆に言うと、外からの刺激に対して適切に反応しなければならない状況は、ひらめきには不向きである。もちろん、その前に「考え抜く」という作業が必要である。


ひらめきやすい場所では、頭を空っぽにして無意識を活用する。つまり、ぼんやりと散歩したり、リラックスしたり。そういう状態の中でも、脳内のアイデア会議は活発に行われている。アイデアが浮かばなくても、脳の中で情報の整理や再編集など、アイデアを生み出す準備が着々と進行していると考えられる。一所懸命作業する緊張と思いっきりリラックスする弛緩のメリハリを作ることも有効だと指摘する。


また、「寝る」というのも究極のアイデア発想法だという。考えに考えて、煮詰まったら寝る。これは、アイデアを生み出しやすい場所に行くのと同様に、究極の感覚遮断状態に持ち込むことに等しい。寝る直前まで、意識を司る前頭葉から「この問題について考えなさい」という指令が出ていれば、意識的なアイデア会議から無意識的な(睡眠中の)アイデア会議へスムーズな引継ぎができる。